第255話 スライム層
目の前に突然現れた城門を潜りタウロは内部に入った。
ダンジョンの出入り口を覆う城壁内部は、いくつか建物があり、休憩所、道具屋、武具屋などがいくつかあり、竜人族の村人達で賑わっていた。
中にはタウロより小さい子供達もいて広場の脇で大人の説明を座って聞いている。
ダンジョン内での言動や注意事項が説明されている。
どうやら、小さい頃からダンジョンに馴染ませるのが目的の様だ。
「あの子達もダンジョンに潜るんですね。」
タウロが感心していると、
「ええ、地下3階層まではスライムだらけなので比較的に安全なんですよ。でも、そこより下の階層はガラッと変わって危険なのでああして危険な事を何度も説明します。あの子達は多分今日が初日なので丸一日かけて3層までを往復する『スライム層の行進』でしょうね。」
という不吉な言葉混じった返答がきた。
「え?丸一日ですか?」
「ええ。ここのスライム層、あ、1階層から3階層までをいいます。このスライム層は危険度は低いですがやたら広くて入り組んでいるんですよ。そこを子供の判断で進ませて3階層までを往復させるので丸一日かかります。子供の頃の自分も経験しましたが、休憩以外はずっと歩きっぱなしで地獄だったなぁ。ははは。」
リーダーが笑顔で答える。
君達そういうところだぞ?
竜人族の無茶をする体質はここから始まってるのだなと内心ツッコみを入れるタウロであった。
「今回はもちろん、自分達が最短距離を先導するので安心して下さい。数時間で目的地の『転移室』までご案内します。」
リーダーは一見すると斜面に出来たただの裂け目の様なところを指さした。
「あれが、ダンジョンの入り口です。」
王都の近くにあったダンジョン『バビロン』と違い、建物で覆っている事もなく、むき出しの裂け目だ。
そのダンジョン入り口周辺には守備兵が何人もいてリーダー達戦士5人がその守備兵達に軽く挨拶をしながら、タウロを案内する。
当然ながらみんな顔見知りなので、タウロがよそ者であり、珍しい人族であり、命の恩人である事はすぐに察して「ありがとうございます。」と挨拶代わりに感謝してきた。
タウロは軽く会釈して応えつつ、リーダーの後に続いてダンジョンに入って行く。
外の見た目とは違い、中に入るとダンジョン特有の石畳の綺麗に整備された階段が現れる。
もちろん、誰かが整備してるわけではなくダンジョンが自分で管理している。
なので、その石畳の床を壊しても時間をかけて自己修理してしまう。
だから下に向かう直通の穴を掘る事はできない様になっていた。
そして、他のダンジョンと同じく床や壁、天井は淡い光を発していて暗いところはない。
その下に続く階段を降りて行くと様相が一変した。
降りてくるまでは石畳の作りだったのに、一階層に辿り着くと岩がむき出しの自然に近い洞窟になっている。
だが、自然のものと違うのは、全体的に淡い光を発している事だ。
やはり、ダンジョンが作り出した造形物である様だ。
「こういうタイプのダンジョンもあるのですね。」
タウロは感心しながら周囲を眺める。
「タウロ殿は、他のダンジョンも知っているのですか?」
リーダーが興味を示した。
「ええ、1つは出来たばかりのもの、もうひとつは王都の『バビロン』というダンジョンですが、どちらとも、ここまで降りて来た石畳のレンガ造り風のダンジョンでした。と言っても1階層しか知らないですが。」
「基本的にはダンジョンの1階層はそういう造りが多いようですね。ここはスライムが湧く層なせいか、湿気が多くて一見、土がむき出しに見える自然に近い洞窟風になっています。でも、土は掻き出せないので穴は掘れません。」
リーダーが壁に手をやって土を掴む素振りを見せたが開いた手の平には何もない。
タウロもマネして脆そうな土の壁を掴もうとしたが、駄目だった。
感触は土なのに掴めない、奇妙な感触が手の平に残った。
リーダーが、「では先に進みます。付いて来て下さい。」と先導して進み始めた。
タウロはそれに続いていくと、壁にスライムが引っ付いている場面に遭遇する。
色んな色のスライムがいて、スライムの博覧会の様だ。
「あの緑色のスライムと、土色のスライムは異なる環境に生息するはずのものですよね?」
タウロが、その事に気づいた。
「ええ、スライム層は環境に関係なく色んな種類のスライムがいます。ただ、上位個体はこの浅い層では現れないので安心して下さい。」
と、リーダーが説明してくれた。
タウロはそれを聞いて、ひとつ試してみたい事を思い出した。
「ちょっと試したい事があるのですがいいですか?時間を取らせませんので。」
「いいですよ。何をするんですか?」
リーダーが興味を持って聞いて来た。
「闇の精霊魔法を少し…。」
タウロはそう答えると最近は控えていた闇の精霊魔法を使う事にするのだった。
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