第254話 ダンジョンの前

 朝一番でタウロは村の出入り口である正門前に行った。


 そこには、初めて来た時にも出会った守備隊の隊長がおり、5名の竜人族の戦士が思い思いの恰好で集まっていた。


「タウロ殿、今日は守備隊で非番だった者を警備にお付けします。1階層はほとんど無害なので大丈夫でしょうが、お気を付け下さい。──お前ら、しっかりタウロ殿をお守りしろよ!」


 守備隊長がタウロに挨拶をしつつ、護衛の戦士達に気合いを入れる。


 戦士達は隊長の叱咤に直立不動で敬礼する。

 きっと普段、隊長は怖いのだろう。

 待機から綺麗に整列していたが、隊長の一言で改めて緊張感に包まれた。


「みなさんよろしくお願いします。」


 タウロは戦士達に丁寧にお辞儀をする。

 この雰囲気では気楽にとは言いづらい。


「それでは、自分は仕事に戻りますので。」


 そういうと隊長はその場から立ち去った。


 それをタウロは戦士達と見送ると、


「では、改めましてダンジョンまでの案内をお願いします。」


 と、言って早速ダンジョンに向かうのであった。




「隊長さんは普段怖いんですか?」


 と、タウロは無言で進む戦士達を和ませようと話しを振った。


「仕事中はとても怖いであります!」


 戦士の1人が緊張感を持ったまま答える。


「あ、そんなに堅苦しい口の利き方しなくていいですよ。こちらも緊張しちゃいますし、普段通りでお願いします。」


 タウロがそう言うと、戦士達はお互い顔を見合わせて、大きく安堵の息を吐いた。


「助かります。隊長が明け方前に正門前に集合させて散々言うんですよ。『タウロ殿に何かあったら竜人族の誇りも悲願も失うと思え』って。確かにその通りなので自分達も非番だった身でたまたまとはいえ、命を賭してお守りする必要があるなと。」


 戦士を代表して、茶色の髪に竜人族特有の金の目のがっちりした体格の戦士が答えた。

 彼がこの隊のリーダーという事になるのだろう。


「命までは賭けなくていいですがよろしくお願いします。僕も無理をするつもりはありませんので気楽に行きましょう。」


 タウロは苦笑いしながら戦士達のまじめさに感心した。


 戦士としての気配も相当なレベルなのはわかっている。

 冒険者で言ったらBランク帯くらいの実力がありそうだ。

 その人達が護衛に付いてくれるのだから安心以外の何ものでもなく、贅沢過ぎるくらいだった。


 森を進んでいると急に目の前に雪が見えてきた。

 道は雪が無いがその両脇には少し雪が積もっている。


「季節外れですが、この辺りは雪がまだ残っています。それに結界の外になるので少し寒いですよ。」


 リーダーの言う通り、森の木々にも雪がかかっている。

 竜人族の村から見て遠くの山々に雪が積もっている程度に思っていたのだが、実際のところ村自体が高地に有り、結界の力でタウロは気づかなかっただけであった。

 よくよく考えると、こちらに来て身の回りの竜人族の戦士達が凄すぎて圧というか息苦しさを感じていたのだが、どうやら本当に空気が少し薄いのかもしれない。


 タウロが服をマジック収納から出していると、


「あ、寒いですが少し歩くとダンジョンの周囲を覆う結界内に入るのですぐ元に戻りますよ。」


 と、教えてくれた。


 確かに進んで行くと、線を引いた様にまたぱったりと雪が無くなっている。


 境目を跨いで入ると先程までの寒さが無くなった。

 エアコンが効いている部屋に入る感覚だ。


「本当だ。こんな結界もあるんですね。」


「ええ、色んな結界が重ね掛けされていますからね。タウロ殿の人族の村では違うのですか?」


 竜人族の人間にとっては常識でもこちらにとっては違う事が多々あったがこれもその一つの様だ。


「ええ、僕が活動している村には結界なんて張ってなくて無防備なので呪いをかけられていた時期もありますよ。王都はまた違うと思いますが、この竜人族のみなさんの生活区域のレベルの結界程ではないと思います。」


「そうなのですか?自分達はずっとこの環境なので信じられないです。便利だからやるべきなのになぁ。」


 竜人族のリーダーは文化的違いに驚いていた。


 いや、そんな高度な結界を生活圏全体に張る事が出来る人は普通少ないからね?


 タウロは内心ツッコミを入れるのだが、声に出すのは悲しいので止めるのであった。


 暫らく歩くと森は拓けて、急に城門が現れた。


「え!?」


 タウロは驚くと見間違えたかと城門を凝視した。


 やはりそこに城門は存在する様だ。


「ははは。幻覚の結界で近づくまで城門や城壁が見えない様になっています。村の方もこの結界が張られてますよ。」


 リーダーはタウロの反応が楽しかったのか笑いながら説明してくれた。


 タウロはその説明で自分が知らない事はまだ沢山あるなと感心するのであった。

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