第253話 竜人族の村支部
冒険者ギルド「竜人族の村」支部の受付嬢は、リュウコと名乗った。
何でもラグーネとは幼馴染だという。
竜人族独自の『修行』という地獄の日々を一緒に体験してきた仲だから良い思い出はあまり無いらしく、タウロがラグーネの話しを振ると、「くっ殺して…」といういつもの台詞が聞けた。
これは、過去の話は聞けないな…。
タウロは内心苦笑いしてその手の雑談はしない事にしたのだった。
「──という事で手続きは完了です。詳しくは依頼主である族長に聞いて下さい」
受付嬢リュウコは、そう答えると、この受付嬢としての仕事を初めて出来た事に満足したのか満面の笑みであった。
「そう言えば、ここには支部長はいるんですか?」
タウロはまだ見かけた事がない支部長を探して、奥の部屋を覗く様な素振りを見せた。
「ちゃんといるけど、普段はダンジョンの浅い層に潜って攻略組の為のサポート作業なんかをしてるわよ」
「へー。浅い層ってどのくらいの階層を言うんですか?」
タウロは参考までに聞いてみた。
「大体50層くらいまでかな。一度潜ったら1か月近く戻ってこない事もあるから多分そのくらいを行き来してると思うわよ」
…50層って浅いの!?そして、約1か月も戻らなかったら心配するところだと思うんだけど…、やっぱり竜人族の感覚は特殊だな…。
タウロは苦笑いするとさらに興味を持って聞いた。
「サポートって具体的には何をしているんですか?」
「え?えっと…、ダンジョン内の魔物を間引いたり、新たな部屋の発見報告や地図の作製、魔物の生態調査なんかもしてるわよ。タウロ君達、人族はやらないの?」
竜人族の常識らしく受付嬢リュウコは首を捻って聞き返す。
「僕達はダンジョンに潜る機会自体がほとんどないです。ダンジョン自体、国が管理していて近づく事も出来ないのが現状ですね」
「そうなの?私達竜人族は修行の一環でダンジョンに潜る事も多々あるし、ダンジョンは色んな恩恵があるから、普段から出入り自由よ。……あ、そう言えばよそ者の出入りは監視しているって支部長が言ってたっけ……。でもタウロ君は大丈夫よ、村の救世主だしね。改めてありがとうございます」
受付嬢リュウコはそう言うとお礼を述べた。
この村に来てから、村人に会う度に挨拶代わりに感謝されている。
中には実際に病に罹って逝きかけたところを助けられたと、泣いて感謝する者もいた。
そういう者は実際沢山いたのだが、どこからともなく守備隊が現れるとタウロ殿が困るからと間に入ってくれた。
村人達も恩人に迷惑をかけるつもりはないので、この数日は挨拶代わりにお礼を言うというスタイルになっていた。
タウロも受付嬢リュウコに手続きのお礼を言って、ギルドを後にした。
クエストが出たという事は、攻略組の準備が出来たということだろう。
いよいよお手伝いする時が来た、タウロは気合いを入れて族長宅に向かうのだった。
「タウロ殿ようこそおいで下さった。クエストとやらを早速受けてくれたんですね。あれで正しかったですか?初めて依頼書とやらを書く時は緊張しましたよ。わはは!」
族長は初体験が楽しかったのか冗談を言うと席を勧めた。
タウロは席に付くと、頷いてお礼を言う。
「お陰様で助かりました。この村では全くクエストが無いので正直焦っていましたから。それで今回の件ですが……。いよいよ、ダンジョン攻略ですか?」
タウロはこの村での活動のほとんどの時間を費やすであろうダンジョン攻略について触れた。
「ええ、そうなります。ですがご安心下さい。タウロ殿には危険な事をお願いするつもりはないですから。依頼書にも書きましたが、攻略組の送迎だけして貰えれば良いので、基本は地上と1階層下り階段そばの『転移室』までの往復と、そこからの最下層への攻略組を送り込んで貰う事のみです。避難所である『転移室』から出なければ最下層まで行ってもほとんど危険はないのでご安心下さい。……くれぐれも下の階層では『転移室』から出ないで下さいね」
族長リュウガはタウロの安全の為に念を押した。
「分かりました。それでいつ出発ですか?」
やる気満々のタウロは聞く。
「──その前に、明日、一度、ダンジョンを見て貰って実際、1階層の『転移室』まで行って貰います。そこで軽く『空間転移』を使って浅い層に移動する実験をして貰えますか?」
リュウガがタウロのやる気を宥める様にお願いした。
「ははは、すみません。確かにそうですね。ダンジョンでは空間転移を使った事がないのを失念してました。明日はどこに赴けば良いでしょうか?」
「それでは、朝一番に村の正門前に集合でお願いします」
「わかりました!それでは明日、また、よろしくお願いします」
タウロは竜人族の村での初めてのクエストに向けて内心気合いを入れるのであった。
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