第252話 病みそうな日々

 タウロは冒険者ギルドにクエスト依頼が無い事に危機感を抱いていた。

 このままクエストをこなせずにずっとここにいたら、せっかくみんなと一緒にDランク帯まで上げた努力が水の泡になる。


 かと言ってダンサスの村に戻って適当なクエストを定期的にこなすわけにもいかない。


 ラグーネの実家で引き籠もって悩むわけにもいかず、タウロは竜人族の村(と言っても街の規模だが)内を散策して打開策を考える事にした。


「…ほとんど山に囲まれ断絶した地にあるのに、山野の食材はもちろんだけど、新鮮な海産物も豊富にあるし、職人の技術も王都並み、いや、それ以上。食事は…、これは普通だけど全体的に水準が高いなぁ。困っている事はほとんどなさそう…。うーん、こうなるといよいよ、冒険者ギルドに依頼してくれる人はいないよね…」


 タウロは困った時に頼れるのが冒険者ギルドだったのだが、竜人族にとってはあらかた自分で魔物の討伐も、力仕事もやってしまえて、自分で無理な時は近所の住民が手伝ってくれるというレベルで解決しているので、冒険者ギルドが入る余地がなかった。


「こうなると…、あちら側から頼りたくなる様に仕向けるしかないわけだけど…」


 タウロはそう考えると数日散策して悩みに悩んだ結果、いくつか強引な手を考え出した。


 1つ目は、職人通りに行って自分の技術をあからさまにアピールし、職人達の興味を引いて、ギルドを通して仕事を発注して貰う事。


 2つ目は、自分で匿名の依頼をして、それを自分で解決、そうすれば、お金にはならないが最低限のクリアノルマは達成できる。


 3つ目は竜人族の村の命の恩人の地位を利用して族長を動かし、何か適当に依頼をして貰う事だ。


 そう、悩んで迷走した結果、タウロはどうしようもない事しか思いつけなかったのだ。


「昨日の夜の段階では名案だと思ったけど一晩寝て冷静になったら、僕、なんてゲスな案を考えていたんだ…。」


 自分で自分が嫌になるタウロであった。


「…いや、でも、1つ目の案はまだ、まだマシか…。2つ目と3つ目は外道過ぎて思い出したくもないけど…。」


 タウロの技術とはもちろん、ラグーネも感心していた魔法陣を利用した商品の事だ。

 幸い、まだこちらには王都で大盛況の魔道具ランタンや、濡れない布の商品、冷蔵庫に鍛冶技術などは伝わってきていない様だ。


 それにタウロは新商品の案が頭にあってこの竜人族の村で売れそうだと思えた。

 なので、こちらの職人に技術を見せてアピールし、教えるにはギルドを通して貰うという姑息な手法に頼る事にしたのだった。


 がしかし。


「それは冒険者ギルドでは受けられません。そういった技術的なものは商業ギルドの管轄ですから。」


 受付嬢は、タウロが例えばこういうのは有りですか?との質問にはっきりと否を突き付けた。


 当然と言えば当然だ。

 クエストなら何でもOKなわけではないのだ。


 やっぱり、焦り過ぎて変な事考え過ぎてる…!


 タウロはギルド内で膝を着くと頭を抱えるのであった。




 タウロはラグーネの兄ドラゴの家のお世話になって10日が経っていた。


 毎日、朝から冒険者ギルドに足を運ぶがクエストは「0」で、いよいよどうしたものかと思いだした。


 こうなると本当にゲスな案である2と3を実行するべきだろうか?2については、ドラゴにお願いしてお金を渡し、適当な依頼をして貰えば良い様に思えてきた。


 あとどのくらいこちらにいるかわからないが、ギリギリになってから実行に移して駄目だった場合が怖い。

 目途は付けておきたいタウロだった。



 その日も、何も張り出されていない掲示板を眺めながらタウロが思い悩んでいると、受付嬢が一枚の紙を持ってタウロの前に立つと掲示板に張り出した。


 その内容は、


『フリークエスト:ダンジョン攻略のお手伝い。』

 ※攻略組の送り迎えが出来る空間転移持ち希望。

 依頼主:族長リュウガ


 であった。


 どうやら、毎日冒険者ギルドに通っているタウロの事をドラゴが心配して族長に報告した事で、族長リュウガがこの様な形を考えてくれた様だ。


「これがあったんだった…!」


 タウロはクエスト内容を読んで安堵の溜息を吐いた。


 ダンジョン攻略自体は上位ランクのクエストであり、冒険者ギルド的に精査段階でDランク帯のクエストとして引き受けられるわけがないのだが、特殊能力持ち指定の送迎限定フリークエストならば、危険レベル的に抑えられてギルドの規則内でDランク帯のタウロでも引き受けられる。


 タウロは当初、自分では普通に受けられないレベルのこの依頼を、ギルドを通さずに引き受けるつもりだったので、これは盲点だった。


「これなら、大丈夫でしょ?」


 受付にこのクエストを持って行くと、受付嬢がクエスト用紙を受け取りながら言った。


 どうやら、族長の相談に対して知恵を絞ってくれたのは受付嬢のこの人だった様だ。


「君の名は?」


 合点したタウロはどこかで聞いた台詞を口にするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る