第251話 新生活
竜人族の村にお世話になる事にしたタウロはまずは、族長のリュウガに挨拶と許可をラグーネの仲介の元、ドラゴの家に住まわせて貰う事も含めて同意を得ていた。
族長リュウガはもちろん快諾した。
タウロは命の恩人である。
理由を聞けば暗殺ギルドという組織に命を狙われているからだという。
その為、一時の間、身を隠す場所が欲しかったのでここを選んでくれた様だ。
こちらも恩人の命の危機を見過ごすつもりはない。
それにタウロの方から、1つの申し出があった。
それは、竜人族の悲願であるダンジョン攻略への協力である。
タウロ自ら「自分の『空間転移』がお役に立つなら、協力します」と言ってくれた。
族長リュウガも近いうちにラグーネを通じてお願いできないか打診するつもりでいたので、渡りに船だった。
こうなると竜人族はまた、タウロに大きな借りが出来る。
そこでリュウガはタウロの為に竜人族の一部隊に暗殺ギルドの情報収集と場合によってはその迎撃を命じる事にした。
ラグーネの話では竜人族の一部の者しか使えない禁忌の魔法が形を変えてその組織に伝わっている様だ。
もしかしたら、創設者は竜人族出身者、もしくはその関係者なのかもしれない。
そんなものが、命の恩人であるタウロを脅かしているとあっては、見過ごせない事だった。
それで、タウロの『空間転移』とラグーネの『次元回廊』の移動方法でまず、ダンサスの村に数人を送り出した。
これは、主に周囲に潜伏、もしくは偵察している暗殺ギルドの関係者を狩り出す目的で、そこからの情報収集も付随する。
それに長けたスキルを持つ者達なので、容易にこなしてくれるだろう。
他は竜人族の村から情報収集をしながら南下していき、暗殺ギルドを丸裸にしていく算段であった。
その間に、タウロとダンジョン攻略をしていければ、お互いに利があるだろう。
その提案に当初タウロは驚いた。
竜人族の村の協力で謎の多い暗殺ギルドの情報収集に力を貸してくれるのだ。
これほど心強い事はない。
実際、ダンサスの村に竜人族の者を送り込む際、その者達を紹介されたが、間違いなく超一流のスキル持ちばかりだったのだ。
ラグーネ程の実力者が「未熟」と言われるのが分かった気がした。
こんな人達に狙われたら、あきらめるしかない…。
スキルだけでなく、よく訓練されている事もはっきりわかったので、狙われる暗殺ギルドに変な話だが同情したい気分になるほどであった。
こうして、タウロは安心して竜人族の村で過ごす事にしたのだった。
それでまずは、自分の本分である冒険者として、ホームグラウンドの冒険者ギルドに足を運んだ。
「竜人族の村」支部という事になるが、ダンサスの村に比べて大きな建物で、屋根の色もちゃんと目印の青色ですぐにわかった。
中に入ると受付のカウンターにいた受付嬢だろうか1人の竜人族の女性がびっくりした顔をしてタウロを凝視している。
あ!ここでは人自体が珍しいんだった。
タウロは内心、凝視される理由を理解してその受付嬢に声をかけた。
「ここを拠点にしばらく活動したいので手続きをお願いします。これが僕のタグです」
タウロは新拠点では誰もが最初にやるいつもの手続きをした。
紫色の髪のボブカットで浅黒い肌の竜人族の受付嬢は、
「あ…、はい!確認させて貰います。────はい。手続き完了です。えっと、タウロさん。Dランク帯のクエストがこの支部では全くありませんが大丈夫ですか?」
え!?
タウロは思わず受付嬢の金の瞳を見返し、そして、慌ててクエストが張り出されているはずの掲示板を見た。
そこには、Dランクどころかクエストが何も張り出されていなかった。
文字通り「0」である。
え!?
二度目の驚きに固まるタウロ。
そして、また受付嬢の女性を見つめる。
「これは一体どういう事ですか?」
タウロは努めて冷静を保って質問した。
「この冒険者ギルドは長い事、クエスト依頼がないんです。私達は基本的にこのギルドのシステムが不要といいますか……。大抵の事は自分で、もしくは、近所の方の手を借りてやってしまうので必要性がないんですよね。ははは…。私、数か月前からこの仕事に就いてますが、初めて冒険者の方を見ました。あ、もちろん、業務内容はちゃんと前任者から習ったので大丈夫ですよ?ただ、依頼も無いし、冒険者もいないので、この竜人族の村では受付嬢は罰ゲームみたいなもので……」
うわー。安定した職として人気の冒険者ギルドの受付嬢が罰ゲームなんだ……。
タウロは文化の違いに驚きながら、
「じゃあ、何で、ここに必要のない冒険者ギルドがあるんですか?」
もっともな疑問を受付嬢にぶつける。
「聞いた話ですと、ずっと昔に支部を作る事で協定が結ばれたのでそのまま、管理、維持がされる様になったそうです。時には迷った冒険者の方もやって来るそうですが、クエストが無いので、私達に道案内をお願いしてみなさんすぐ帰って行くそうです」
それを聞いてタウロは、とんでもないところに来てしまったかもしれないと初めて感じるのであった。
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