第250話 遠い地に…
村の関係者に一通り挨拶をしたタウロは、エアリス達以外の者達からの見送りをされる事なく村から消えた。
これはもちろん、ラグーネの『次元回廊』を大っぴらに出来ないからであるが、事情を知らない者にとってはチーム『黒金の翼』がDランク帯に上がったばかりだったので、驚きと共に根拠のない噂も沢山される事になった。
「以前も長期失踪してたろ?今回もどこかに出かけているんだよ」
「いや、今回はチームを正式に脱退して消えたらしいぞ?」
「マジか!?この村最年少冒険者の出世頭になったのにか!?」
「おいおい。『黒金』よー?お前らタウロを追い出したんじゃないだろうな?」
冒険者ギルド内で、タウロの実力を認めている上位の冒険者が、下の冒険者が出まかせの噂を流す前に丁度その場にいたエアリス達に話しを振った。
「馬鹿言わないで!タウロにも事情があるの。…私達はそれで送り出す事にしたのよ。」
エアリスが不機嫌に、だが悲しげに言い返した。
「…これからは、私が『黒金の翼』のリーダーとしてチームを率いるから、クエストで一緒になった時はよろしくお願いします」
エアリスは、ギルドのロビーで冒険者達に頭を下げた。
「おお…、わかった。Dランク帯になったら上の連中のサポートクエストが沢山増えるからな。一緒になる機会も多いし、よろしくな」
以前、一緒にボブ達を救う際にオーク討伐をしたDランク帯チームのリーダーがエアリスに声をかける。
「出まかせの噂をする奴の相手はするな。俺達は知っている」
何となく事情を察しているBランク帯チームの『白夜』と『絶影』もエアリスに声をかけた。
これには、他人事として根も葉もない噂を広めようとしていた万年Eランク帯チームの冒険者も口を閉ざす。
このダンサス支部のエース格であるBランク帯の2チームが擁護する姿勢を取ったのだ。
これ以上言うと、目を付けられる可能性がある。
それは、みんな避けるところであった。
「で、新リーダー。今後の方針はあるのかい?」
オーク退治のクエストを引き受けてギルドを出ると、アンクがエアリスに展望を聞いた。
「あるわけないでしょ。あ、ちょっと考えてる事はあるわ。でも、タウロと連絡が全くつかないわけじゃないし、チームとして3人での体制をしっかり固めたいから当分は無難にDランク帯クエストをこなしていくわよ。がんばろうね!」
エアリスがそう答えるとみんなを鼓舞した。
「ああ!タウロは竜人族の村へ様子を見に来るのはたまにでいいと言っていたが、数日に一度は私が様子を見に行ってくる。そもそも、私の実家だしな!」
ラグーネは笑って言った。
「ラグーネの兄貴もよく快諾したな!」
アンクが竜人族の村でのタウロの宿泊先がラグーネの家になった事に笑って聞き返す。
「兄上は、私が最近あまり顔を出さないから、良いきっかけと思っている様だ」
ラグーネは兄ドラゴの自分への心配ぶりに苦笑いするとアンクに答える。
「タウロとは簡単に連絡出来るし、大丈夫。問題は私達3人だから。タウロがメンバーから外れたから弓とポーションの援護も、的確な指示もないんだからね?」
後衛としてタウロの穴を埋めなくてはいけないのはエアリスだったので、自分に言い聞かせる様に注意喚起した。
「落ち着け、エアリス。これまでもエアリスのサポートは十二分に良かったし、俺とラグーネもソロでの経験も沢山積んでいるから自己対応はできる。荷物もタウロが置いていったマジック収納付き鞄や、ラグーネのマジック収納で何とかなるし、焦る事はないぞ。慣れだ慣れ」
アンクがエアリスの緊張を解そうと不安材料を指摘して消した。
「…そうね。でも二人ともタウロがいない編成は慣れるまで慎重にやりましょう。ただでさえDランク帯に上がった事でクエストの難易度は上がってるから。今日のオーク討伐も集中して行うわよ!」
エアリスはタウロのいないチームの責任を一身に背負いクエストに臨むのであった。
タウロがいなくなって数日。
ダンサス村の日常は変わる事なく、日々は過ぎていく。
そんな中、早速、ラグーネが竜人族の村に様子を窺いに行くと、そこにタウロの姿はなく、丁度いた兄ドラゴから、
「タウロ殿は、こちらの冒険者ギルドに赴き、クエストが全く無いので困ってる様だ」
と、報告を受けてタウロに会えぬまま『次元回廊』でダンサスの村に戻る事になったのだった。
タウロはラグーネの実家にじっとしている事はほとんど無く出歩いていた。
その為、ラグーネもタウロと会えず、兄ドラゴからタウロの様子を聞き、それをエアリス達に伝えるという形に終始した。
その為、エアリス達の事をタウロにも報告できなかった。
報告と言っても、この数日で新しい3人体制も形になってきたから安心して、というものであったのでドラゴへの伝言で事足りるものであったが。
こうして、タウロはダンサスの村から竜人族の村に単身移動し、エアリス達も新生活が始まったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます