第249話 挨拶と

 タウロは冒険者ギルドで、チーム『黒金の翼』を脱退する手続きを済ませた。


 これで、表向きはソロの冒険者だ。


 これにはダンサス支部長クロエも慌てて、全員を支部長室に呼んで説明を求めた。


 タウロが代表して端的に説明をすると、


「…そういう事なのね。暗殺ギルドについては私も本部に働きかけはするけど、どうなるかはわからないわ。…ところで、タウロ君はこれからどうするの?」


「ずっと狙われる事もないでしょうから、僕は一時的に身を隠してほとぼりが冷めたら戻ってくる予定です。」


 流石に竜人族の村に行く事は説明しなかった。


 知らない方が良いだろう。


「…そう。タウロ君にはこのギルドはお世話になってるからね。薬草採取も未だにしてくれてたし、Gランククエストもよく引き受けてくれてたし。ダンサス支部の根幹を支えてくれてたから、一時的とはいえ残念だわ。はぁ…。気を付けてね、これまでありがとう。」


 支部長として、受付嬢として、そして、一個人としてタウロにお礼を言うのだった。




「え?タウロ君、この村を離れるのかい!?」


 マーチェス商会の代表であるマーチェスは訪問してきたタウロの口から予想外の言葉に大きな声を上げた。


「声が大きいよ、マーチェスさん。」


 タウロは苦笑いすると、注意した。


「ああ、ごめん。もちろん、一時的なものだよね?前回みたいに数か月とか空けないよね?」


 タウロが王都に行ってた間は手紙のやり取りで報告、商売の相談などをしていたのだがそれはそれでラグがあるので大変だったのだ。


「それが、長い事空けるかもしれません。今回は手紙のやり取りが出来る距離ではないので緊急以外では手紙は出さないと思いますから僕との取引は現状維持でお願いします。」


 本当はラグーネを介せばすぐなのだが、現状を考えると秘密にしておいた方が良いだろう。


「そうなのかい!?…うーん。タウロ君にはおんぶに抱っこでお世話になってるから心配なんだけど…、まあ、今は目立ったトラブルも無く落ち着いてるけどさ。あ、もちろん、新しい商売の話がある時は連絡くれるんだよね?」


 マーチェスは最早、自分の商会の実質的オーナーの様な存在であるタウロ無しでの商売は考えられなかったから、連絡が取れなくなる事を心配するのは仕方がなかったかもしれない。


 タウロとしては、これを機に、マーチェス商会が独自路線で伸びて行ってくれると安心できるのでいい機会かもしれないと、マーチェスの反応を見て思うのであった。



 その後、『憩い亭』の料理長や、『小人の宿屋』の女将などに村を離れる事を報告すると犬人族であるボブの家を訪れた。


「ボブー!タウロ君が来てるわよ。」


 ボブの彼女で一緒に暮らしている猫人族のモモが奥の部屋にいたボブを呼んでくれた。


「おお、タウロじゃないか!どうした珍しいな?突っ立ってないで家に入れ!」


 ボブは奥から出てくるとタウロの顔を見て笑顔で迎えた。


 タウロはみんなにした様に村を出る事を報告した。


「チームも抜けるのか!?Dランク帯になったばかりなのにな…。どこで冒険者を続けるんだ?」


 タウロの昇格をちゃんとチェックしていたボブであったが、事情を知らないので聞いておきたいところだろう。


 この村を一緒に救った仲だ、その行き先は気になる。


「北の方になると思いますが、まだ、決まってません。」


「…そうか。チームと仲違いしたとかではないよな?」


「もちろんそれはないです。…実は、…僕、暗殺ギルドに狙われているんです。」


 ボブが自分を心配してくれているのが伝わってきたので、正直に話すべきとタウロは判断して打ち明けた。


「…先日の作戦絡みか?」


「それも含めて因縁があって、少しの間、身を隠す事にしたんです。」


「…そうか。仲間を巻き込まない為だな…?わかった。話してくれてありがとうな。もちろん、この事は内緒にしておく。モモ、お前も人に話すなよ。」


 側で黙って作業をしていたモモに口止めした。


「…もちろんよ。すぐ、戻ってこられるといいわね。」


 モモは寂しそうにタウロに声をかけた。


「はい。戻ったらまた来ますね。今生の別れではないので心配しないで下さい。安全な場所に行くので大丈夫ですよ。」


 タウロは笑顔でそう答えると二人に挨拶をしてボブの家を後にするのであった。



「…タイミングが悪いな。驚かせるつもりで俺達の結婚式の招待状を準備していたのに渡せずじまいだ…。」


 ボブは大きくため息を吐くのであった。


「仕方ないわよ。タウロ君にも事情があったんだから。帰ってきた時に驚かせましょう。そういうサプライズもいいかもよ。」


 モモは自分の未来の夫の背中を叩いて励ますのであった。

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