第241話 逃げられる
建物から飛び出したタウロ達一行は、すぐに西側の城壁へと向かった。
こちらには、小さい門があるがすでに少し開いている。
その門のある城壁にタウロは登ると傍の森の中で戦いが繰り広げられているのがわかった。
敵はタウロの『気配察知』に引っ掛からない。
阻害系能力の持ち主達なのだろう。
だが、それと戦っている冒険者や領兵隊の気配はわかる。
その居場所から、呪術者のいる辺りをタウロは予測した。
「エアリス、あの大きな木の下の周囲に半径五メートルの結界魔法を今すぐお願い!」
タウロはエアリスにすぐ、位置を伝えると結界魔法を指示する。
「わかったわ!」
エアリスが魔法を唱えた数瞬後だった。
黒い靄がタウロが指示した木の辺りから吹き出しエアリスの張った結界内に充満した。
その結界内の木は見る見るうちに枯れていく。
残念ながらその結界魔法の内側にいた領兵三名と冒険者チームの前衛二名が道連れになっていた。
それでも、最悪の事態は回避できたとタウロは思っていた。
その周囲には、数十人の領兵と三チームの冒険者が展開していたのだ。
下手をしたらその多くの味方が巻き込まれていたかもしれない。
エアリスの結界魔法は、今やれる最高の働きをしたと言える。
タウロ達が被害を最小限に抑えた事で、機密情報を持って離れに隠れて様子を窺っていた敵が突破は無理と判断したのだろう、タウロ達がいる門に引き返してきた。
小さい門をくぐって戻ってきた敵は、タウロ達と鉢合わせになった。
敵は、状況を一瞬で把握したのだろう。
機密書類を片手に、腰の剣を抜いて構えた。
「おいおい、一人で俺達からその書類を守るのは無理だぞ?」
アンクが大剣を油断なく構えて、敵に降参を呼びかけた。
「……いや。そうでもない。ソーク!これを持って逃げろ!」
敵はそう言うと、タウロ達の背後に向けて丸めてある書類を投げた。
タウロ達は思わず、頭上を越えていく書類に気が逸れた。
敵はその瞬間を逃さず、アンクに斬りかかる。
一瞬の隙を突かれたアンクはそれでも剣をギリギリ大魔剣で受け止めていた。
タウロはそれを確認すると機密書類の行方を視線で追った。
そこには、書類をキャッチしてギョッとしているソークがいた。
どうやら、牢屋から脱出して逃げようとしていた様だ。
タウロは、弓を構える。
「その書類をそのまま地面に置いて下がって下さい」
タウロは警告する。
「……何か知らんが、これを持って逃げれば、お前に嫌がらせが出来るみたいだな」
ソークはそう言いながらニヤリと笑い、タウロ達の視界からぼやけていく。
ソークの能力『遁走』で、某映画の宇宙人の様に背景に溶け込んで姿を消した。
「消えた!?」
エアリスは、それに驚く。
タウロはそれに慌てず、躊躇なくソークが消えて逃げたと思われる方向を予測して矢を放った。
「ぎゃっ!」
ソークが悲鳴を上げた。
タウロが放った矢はソークの腕を掠めただけだったが、ソークは手にしていた書類を落として、その場に姿を一瞬現したが、すぐにまた消えて逃げ出した。
タウロは、すぐに矢を番えると見えないソークの動きを先読みしてまた矢を放つ。
今度は、当たる事なく地面に刺さった。
そこでやっとタウロは弓を番えるのを止めた。
その背後では、アンクとラグーネが敵を倒していた。
敵は二人がかりで倒せるレベルの強敵だった様だ。
「……思った以上にこっちは手間取ったが、そっちは大丈夫かいリーダー?」
アンクが、思わぬ手練れだった事に冷や汗をかきつつ、タウロに質問した。
「アイツには逃げられたけど、機密書類は取り戻せたみたい」
タウロはソークが落としていった機密書類を拾うとアンク達にそれを振って見せた。
暗殺ギルドの拠点制圧は、その1時間後には完了した。
敵の首領は、Aランク帯冒険者チーム『金の鬣』が、激しい戦闘の末、討ち取った様だ。
『金の鬣』は、リーダーが短慮だが文字通り、超一流の冒険者チームだ。
そのチームと激闘を繰り広げた敵首領は、とてつもない強さだったという事になる。
あの時タウロ達が敵の首領を優先して追っていたら、こちらが全滅していたかもしれないと今更ながらに思うタウロであった。
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