第240話 地上の戦い

 地上に上がるとそこには、先程の呪術者の同行者達4人が範囲即死呪法の巻き添えを避けて待機していた。


「な!? あいつは失敗したのか!?」


 動揺を隠せない敵の隙を逃さず、アンクが階段を駆け上がりながら投げナイフで二人を仕留め、距離を詰めたところで、大魔剣の一振りで残り二人も切り捨てた。


「改めてこの大魔剣の切れ味は大したもんだな」


 アンクが大魔剣を片手に感心していると、爆発音や、物が壊れる音、叫び声、怒声が聞こえてくる、外は大騒ぎの様だ。


 タウロ達一行は、拠点の中央の建物の1階にいる。


 連行されてきた時は袋を被せられていたので、詳しい位置はわからないが、何となくそれだけはわかった。


「どうやら、外は冒険者達を中心に討伐隊が優位に事を進めてるみたいだが、私達はどうするのだ?」


 ラグーネが、タウロにこの後の行動を確認する。


「……宝物庫の中身は抑えたから、後はここの拠点のリーダーを倒せれば敵も動きが止まると思うのだけど…。みんないいかな?」


「もちろんよ!」


 エアリスは力強く答える。


「ああ、大将首を狙うのは、戦の常套手段だからな」


 戦慣れしているアンクがニヤリと不敵に笑う。


「そうだな。狙うはここのボスだ!」


 ラグーネもノリノリの様だ。


「じゃあ、ここの上の階に行ってみよう」


 タウロはみんなに頷くと、『気配察知』に映る集団がいる場所を目指して、先頭に立って階段を駆け上がるのだった。



 タウロ達が二階に上がると、この拠点の首領と思われる男の怒声が聞こえてきた。


「呪術師には、西側から包囲網を突破する為に例のを使わせろ!北は駄目だ。あちらには、Aランク帯冒険者チーム「金のたてがみ」がいる。一番、人が少ない様にみえてあそこが一番包囲を突破するのは難しい。機密書類は西側の包囲網を突破して外に持ち出す。後は燃やせ!」


 首領と思われる男はそういうと陣頭指揮に向かう為にタウロ達が上がってきた階段とは反対側の階段から部下を連れて駆け降りていく。


「あっちにも階段があったのか!仕方ない……。僕達は書類を燃やされる前に押さえよう」


 タウロは当初の首領討伐から変更する事にした。


 何やら敵にとって大切な書類らしいから、それを押さえる事の方が重要そうだ。


「……仕方ないな。燃やされる前に書類とやらを押さえよう」


 アンクも首領の発言から優先順位を変えた方が良いと判断した。


「……ボスは諦めるしかないか!」


 ラグーネは少し残念そうではあったが、仕方ないと自分を納得させた。


「じゃあ、早く行きましょう!」


 エアリスが首領が出てきた部屋を指さす。


 みんなが頷くとその首領の部屋に向かった。


 開いたままの扉の向こうには、書類を外のテラスに持ち出して燃やそうとしている者達がいた。


「そうはさせない!」


 タウロは山積みの書類に火魔法で火を点けようとしていた男の胸を矢で射抜いた。


 味方が射抜かれた事に、他にいた四人の者達全員がこちらを振り向く。


「もう、ここまで敵が!書類を早く燃やせ、こいつらは俺が道連れにする!」


 一人がそう言うと短剣を腰から引き抜く。


 タウロは道連れという言葉に反応してエアリス達を下がらせると、書類の近くにいた男がそれを見計らった様に書類の一部を持って、テラスの手すりを飛び越えて逃げだした。


 きっとあれが機密書類なのだろう。

 まんまとハッタリにタウロは騙されたのだ。


「くっ。みんなごめん。騙された……」


 タウロは謝罪すると、すぐさま弓を振り絞って他の書類に火を点けようとする敵を射抜いた。


「ちっ!ならば!」


 短剣を構えていた男はタウロに背を向けると書類の山に突っ込んだ。


 まさか!?と思ったタウロは矢をその男の背中に放った。


 その男が書類の山に覆い被さるのと背中に矢が刺さるのが同時の瞬間だった。


 男の全身から火が噴き出し、その炎が瞬く間に書類を飲み込んだ。


「エアリス、水魔法を!」


 タウロが言うのと同時にエアリスはすぐさま魔法を唱えて書類に水魔法で消火しようとした。

 だが、最後の一人が、書類の前に立ちはだかり、その男もまた全身から火を噴きだすとエアリスの水魔法を防ぎ、そのまま燃える書類の山に多い被さって倒れるのであった。

 すぐにエアリスが、再度、水魔法で消火したが、もうすでに書類はほとんどが燃え尽きていた。


「……なんて奴らだ。紙切れの為に命を張るとは……」


 アンクが、敵の躊躇なく自死する行為に、理解できないとばかりに首を振った。


「……仕方ない。今から首領を追いたいところだけど、西側の戦線にすぐ向かって、敵の突破を防ごう」


 後手に回っているのは、敵との覚悟の差かもしれないと思うタウロであった。

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