第242話 討伐後会議

 当然と言うべきか、やはりと言うべきか、暗殺ギルドの捕虜は殆どが非戦闘員の僅かな男女と子供で、他は重傷を負って意識の無い者だけという有り様だった。


 そう、捕虜になると自害した者が多かったのだ。


 討伐隊の被害も多く、領兵はもちろん、Bランク帯の冒険者チームの中で全滅しかけたところもあった。

 それは、敵が致死性の毒や、麻痺を使っていたからで、深手を負わなくても致命傷になるからだ。


 タウロはそんな味方の為に、状態異常回復系ポーションと魔法を駆使して治療にあたった事で、辛うじて助かった者もいたが、治療が遅れて間に合わない者はやはりいた。


「…残念ですがもう、この人は亡くなってます」


 タウロの状態異常回復魔法とポーションで出来る限りの事をした死傷者の死を宣告する。


「くっ、畜生…!こいつは駄目だったが、うちの治癒士は助けられた。…ありがとう。…あいつら後衛ばかり先に狙って来やがったからな。前衛の俺がそれを防げなかったのが悪いんだ…」


 敵は状態異常を回復できる後衛の治癒系冒険者を先に狙う戦法だった様だ。


 冒険者は普段、魔物と戦っている。

 盗賊や山賊討伐をやっているが、暗殺者という特殊な戦い方をする者達の戦法には勝手が違ってかなり苦戦した様だ。


 だが、そこは一流冒険者達で、敵の戦い方になれると有利に進め、勝つ事が出来たのだった。


 死傷者は全て拠点の中央建物に集められていた。


 捕虜も、念の為に地下の牢屋に押し込んでおく。


 怪我人の治療が落ち着いてくると、Aランク帯チーム『金の鬣』が領兵隊の隊長達と各チームのリーダー達を招集した。


 その中に、タウロは入ってなかったが、ダンサス支部のBランク帯冒険者チーム『白夜』のリーダーと、『絶影』のリーダーがタウロを誘った。


 この二チームは、西側に展開していたが、黒い靄について当初から警戒していたので、今回は巻き込まれていなかった。

 だがその威力は目の当たりにしていた。


 タウロの情報を信じて敵との戦闘はかなり慎重に行っていたが、実際、目の前で使われてその範囲即死呪法の黒い靄の広がり方は、予想を超える速さだった。

 そんな中、『黒金の翼』が結界を張って被害を最小限に抑えてくれたのはすぐわかった。

 あれがなかったら自分達も巻き込まれていたかもしれないと思うとゾッとするのだった。


 それだけに、この二チームはタウロ達『黒金の翼』の戦功を本人から話させるべきと思ったのだった。



「…むっ。なぜ、Eランク帯チームのリーダーがいるんだ?」


 Aランク帯チームのリーダー・ライガが不機嫌そうな表情をした。


「タウロの情報は正しかったからな。そして、このチームの結界師のおかげで西側の俺達は被害を最小限に抑えられた。あと、タウロ達『黒金の翼』は、作戦通り宝物庫を押さえ、大掛かりな範囲即死呪法を敵に使わせなかった戦功もある。それをこの場に呼ばないという理由はないだろう」


『白夜』のリーダーがタウロを擁護した。

 隣で『絶影』のリーダーも頷く。


「だが実際には、本当にそんな大掛かりな呪法が使用されるところだったのかは、そのEランク帯チームにしかわからないのだろう?」


 ライガはまだ、信じていない様だ。


 すると『白夜』のリーダーがただの石ころになった魔石と呪殺石を自分のマジック収納付きバッグから取り出すとライガ達の目の前の机に置いた。


「これが俺達が目撃した呪術師が持っていて、範囲即死呪法の時に用いたものだ。そして、…タウロ見せてやれ」


『白夜』のリーダーが、タウロに回収した魔石を出す様に促した。


「…これが、敵が使用しようとした魔石です」


 タウロはマジック収納から特殊な加工をされたひと際大きな魔石をライガの目の前に出した。


「ライガさん、これを見比べてわかるだろう。こっちの魔石で西側の仲間は領兵3人、一緒に行動したB-チーム『餓狼』の前衛2人が即死した。敵を合わせたら10人以上だ。それも『黒金』の結界で被害を最小限に抑えてだ。もし、こんなデカい魔石を元にあんなやばい呪法を使われていたら、みんな敵に道連れにされていたかもしれないんだぜ?それをこのタウロ達『黒金の翼』は未然に防いだんだ。十分な働きだろう?こいつらに俺達は命を救われたんだよ」


「くっ!」


 ライガは、自分の過ちを認めたくなかったのだろう、言い返そうかと一瞬間があったが、


「…ライガ。『白夜』のリーダーの言う通りだ。この結果を我々は教訓にしなければいけない。暗殺者ギルドは我々もよく知らない独自の技術を持っているのだ。甘く見ていた我々のミスだ、死者も出ている」


 と、エイコクがライガに下手な事を言わせては信用を失うと思ったのか話に割って入った。


「あと、これも、入手したので確認して下さい」


 タウロもそれがわかったので、揉める前に別の話題にとマジック収納から機密書類を提出した。


 エイコクはそれを受け取ると内容を確認する。


「…こ、これは!…ライガ、これはこのチームのお手柄だ。内容はここでは言えないが、ダレーダー伯爵からの依頼は完遂出来たと言えるだろう」


 どうやら、チーム『金の鬣』は、暗殺ギルド討伐依頼の他に別の依頼もされていた様だ。

 機密書類の内容は知らないが、タウロ達『黒金の翼』が一番の功を立てたのは間違い無い様だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る