第232話 死、そして…
エアリス達はタウロが戻ってくるのを待っていた。
だが、アンクが少し遅くないかと言うので、全員で村に向かう事にした。
険しい道を進むと村が見えてきた。
行商人の情報は正しかった様だ。
「タウロは村の中に入って行ったのかしら?」
エアリスがアンクとラグーネに話を振った瞬間だった。
村の中心から黒い靄が勢いよく噴き出し、瞬く間に村を覆った。
あっという間の出来事に、エアリス達は固まって動けなかった。
「……これは、範囲即死呪法!?」
ラグーネが不吉な事を言った。
エアリスはその言葉に驚いて村の方を見ると、タウロの身を案じたのか村に飛び込んで行こうとした。
アンクが慌ててエアリスの手首を掴んで止める。
「まて、エアリス!不用意に飛び込むな!」
「タウロが中にいるかもしれないのよ!?」
「それでもだ!」
アンクがエアリスを引き留めていると、村全体に広がった黒い靄はすぐに晴れ霧消した。
「ラグーネ、もう行っても大丈夫か!?」
アンクがこの靄の原因を知っていると思われるラグーネに聞く。
エアリスもすがる様に見つめている。
「……もう、大丈夫なはずだ。だが、中にいた者は……」
ラグーネの言葉に少なからずショックを受けたアンクはエアリスの手首を握る手を緩めた。
エアリスはアンクが離したので迷いなく村に飛び込んでいく。
アンクもその拍子に正気に戻るとエアリスの後を追っていく。
ラグーネも力なく二人の後を追う。
村が絶望的な事を想像したからだろう、その足取りは重かった。
「タウロどこにいるの!?村の方、誰かいませんか!?」
エアリスが人影のない村の中で呼びかけながら村の中心に行くとタウロが倒れているのが視界に入った。
「タウロ!」
エアリスはタウロに駆け寄り、うつぶせに倒れたタウロを仰向けにした。
アンクもエアリスの声に反応すると走ってきた。
「タウロ!……アンク、タウロが息をしていない!心臓も止まってるわ!」
エアリスはタウロがピクリとも動かない事に取り乱しかけたが、魔法治癒を唱え始めた。
アンクもタウロの胸に耳を当て、心臓が止まっているのを確認すると、
「くそっ!リーダー逝くな!」
と、傭兵時代に教わった心臓マッサージを始めた。
そこにラグーネがやってきた。
「……アンク、無理だ。あの範囲即死呪法は術者の命の代わりに『死』そのものを一定範囲にもたらす禁呪だ。命自体を奪うものだから生き返る事はない、無理だ」
ラグーネがタウロの死に絶望しながら、淡々と自分の知っている知識を話した。
一時、アンクはその言葉を無視して心臓マッサージをしていたが、ついに手を止めた。
エアリスはそこでタウロが完全に死んでしまった事を理解し、治癒魔法を唱えるの止めた。
そして、その目には涙が見る見るうちに溢れ、頬を伝って流れ落ちていく。
エアリスは無言でただ、泣き崩れるのだった。
「……家の中を見てくる」
その場に居たたまれなくなったアンクは、立ち上がるとタウロが出てきたと思われる家の中に入って行った。
すると、中に子供が1人倒れている。
よく見るとまだ呼吸をしている。
「……タウロ君は…死んだんですね。……これで自分もやっと死ねます……」
そう言うと、キーンという思わず耳を塞ぐ高い音が少年から鳴り響いた。
アンクは耳を塞いだが、少年から目を離さなかった。
少年は音が止むと息を引き取った。
最後に何かを知らせたのかもしれない。
アンクは、エアリス達のところに戻ると、声をかける。
「今の音、外の誰かへの連絡かもしれない。俺がタウロを背負う、急いでこの村を離れよう」
アンクの提案にラグーネは頷くと、エアリスを立たせて手を引く。
冷たくなったタウロの遺体を背負ってアンクが村を出ると、村の家々に火が付いた。
誰かが火をつけたのか、死後、付くようになっていたのかはわからないが、見る見るうちに燃え広がって行く。
「他の気配は感じないが、念の為橋の辺りまで急ごう」
アンクがタウロを背負ったまま言うとラグーネも茫然自失のエアリスの手を引いて足を速めるのだった。
橋に向かって険しい道を進んでいた一行。
タウロを背負っていたアンクはすぐにその瞬間に気づいた。
背中からタウロの鼓動と体温そして呼吸が伝わってきたのだ。
「エアリス!タウロの心臓が動き出したぞ!」
アンクは急いでエアリスを呼んだ。
ラグーネに手を引かれるままに正気を失っていたエアリスの目は、みるみるうちに焦点を取り戻した。
「本当なのアンク!?」
エアリスはラグーネに引かれていた手を振り解き、アンクの元に駆け寄る。
すぐにタウロの口に手をやると、呼吸しているのが分かった。
「生きてる!タウロが生きてる!」
エアリスの言葉にラグーネも驚き、駆け寄る。
アンクは背負っていたタウロを下ろすと横に寝かせた。
「エアリス、体力上昇魔法を!私はタウロから貰っていた上級ポーションを飲ませる!」
ラグーネは、タウロの口を開けさせると、ポーションを少しずつ注ぎ込む。
エアリス達は、目の前で起きた奇跡に浸る余裕も無くタウロの治療に当たるのだった。
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