第231話 死が襲う

 依頼を受けた翌日の朝一番にダンサスの村を出て、タウロ達一行は依頼の村までまっすぐ向かう事にした。


 緊急の依頼という事で、野宿を一泊挟んでの強行軍だ。


 睡眠と食事以外はひたすら歩き続けたが、誰一人弱音を吐かない。

 みんなそれだけ体力があるのだ。


 そんな中でエアリスが一番体力がなさそうだから心配ではあったが、愚痴1つ溢さなかった。


「子供達に何かあったかもしれないんでしょ?じゃあ、急がないと」


 エアリスはそう言うと、タウロの休憩の提案を却下して歩く事を提案した。


「道が険しくなってきたがあの行商人、大きな荷物を持ってこんなところを歩いて村まで行ってたのか。商売人ってやつは根性あるな」


 アンクが依頼主の行商人に感心した。


「そうだな。商人は利があれば、辺境の地までも足を運ぶというから、このくらいはへっちゃらなんだろうな」


 ラグーネがアンクに賛同した。


 道は狭くうねり、急勾配で険しかった。

 もちろん舗装などされていないので歩くのも一苦労だ。


「こんな先に、子供を集めて住むとは物好きだな」


 アンクが呆れながら斜面を登る。


「……そうね。こんな険しい道しかない先で子供達と住んでるって奇妙かも……」


 エアリスは子供の事を優先していたが、不可解さに疑問を持った。


「……そうだね。訳ありの村なのは確かだね」


 タウロが先頭で歩き続けていた一行だったが、目の前に崖が現れた。


 そこには橋があったと思われる名残が残っていた。


「……依頼主の言う通り、橋が落ちてる。この道でやはり正解だったんだね」


 向かいの崖までの距離は10m程、落ちれば即死する程度の深さの崖の底がその間にはあった。


「じゃあ、行ってくるね」


 タウロはその近くの太い木にロープの端を縛るとそのロープを持って崖の底に垂らすと『浮遊』能力を使って自分の体重を無くして、崖を伝って降りて行った。

 ジャンプして降りればもっと早いのだが、以前に体験済みとはいえ紐無しバンジーは二度とやりたくなかったのだ。


 崖の底に降りると、そこには骸骨があった。

 それも人のだ。

 荷物も散乱しているところをみると、橋の途中で落ちたのかもしれない。


 これは、散乱した荷物から行商人かもしれないと判断できた。


 骸骨の状態からして依頼主以前に、ここに商売をやりに来ていた人なのだろうが、ちょっとタウロは引っ掛かった。


 疑問を残しつつ、タウロは向かいの崖を『浮遊』でまた体重を無くして登って行った。


 すぐに崖を登り切ったタウロは近くの太い木にロープを渡すと括りつけた。


 そして、崖の向かい側のみんなに合図を送ると同時に、


「みんなが渡っている間に、ちょっと村の様子を偵察してくるから!渡り切ったら、休憩しておいてね!」


 と、声をかけた。


「わかったわ!気を付けてね!」


 エアリスがそれに応じる。


 タウロは念の為、『気配遮断』で気配を消し、『気配察知』で周囲を最大限確認しながら険しい道を進むと『気配察知』に人を察知した。

『真眼』にも横になった子供と思われる小さいシルエットが見える。


「……一人だけ?」


 タウロは疑問で警戒心が大きくなりながら進むと柵に囲まれた村が見えてきた。


 確かに村はあったのだ。


 ただ、人の気配が子供1人だけというのは、明らかにおかしい。

 他の村人はどこにいったのだろうか?


 疑問に感じながら村の入り口から中に入る。


 周囲を十分警戒しながら見て回るが人の影を見る事は無い。


 タウロは子供の気配がある家へと向かう。

 どうやら、村の中心で一番大きいので村長宅だろうか。


「ごめん下さい。すみません、誰かいらっしゃいますか? ……入りますね」


 タウロは挨拶をして中に入ると『真眼』に映る子供のシルエットを目指して部屋の奥に入った。


 そこには、苦しそうな息遣いで床で横になる少年がいた。


「大丈夫!?」


 タウロは、少年に駆け寄る前に声をかける。


 周囲に目をやり、不自然なものがないか確認し少年の様子を窺った。


「……あなたは誰……?」


 少年がタウロに気づいて目を覚ますと、荒い息遣いで聞いて来た。


「僕は、タウロ。ここに出入りしている行商人の方に依頼されて様子を見に来たんだ」


「……そう。あなたがタウロなんだね……」


「……?僕の事を知ってるの?」


 苦しそうにしている少年が自分を確認するので、不審に思った。


「……ここは、ある事を目的とした施設だったんだ。……でも、ここから任務の為に出かけた優秀な教官が任務を失敗して捕らえられてね、だから引き払われたのだけど……」


「……なんでそんな重要そうな事を外部の人間である僕に言うんだい?」


 タウロは背中に嫌な汗をかき始めていた。


「……だって、その原因が君らしいから…。何度も君にうちの暗殺ギルドは邪魔された……から……、これは君へのギルドからの報復……」


 少年は息も絶え絶えに衝撃的な事を話す。


 タウロははっとすると、少年の体を横向きに起こした。

 するとその少年の体の下の地中には埋められた加工された大きな魔石が呪殺石と一緒に並んでいた。


「……しまった!これは罠!?」


 タウロは自分の勘が最大限の警戒音を鳴らしていたので少年から離れ、家の外に急いで飛び出そうと走った。


「……この距離で即死の呪いからは逃げられないよ……」


 少年がそうつぶやいた瞬間、魔石と呪殺石から黒い靄が一気に噴き出し、タウロはその黒い死をもたらす呪いに飲み込まれ、靄は村全体をも飲み込んだ。


 家を飛び出したタウロは靄に飲まれた瞬間力尽き、その場に崩れ落ちると家の玄関先で事切れるのであった。

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