第224話 続・空間転移の話
ダンサスの村の外れの森の拓けた一角。
「リーダー、ここで空間転移の何を実験するんだい?」
アンクが他の気配が無いのを確認しながらタウロに聞く。
「まずは、『空間転移』で1人ずつ移動できるか試してみるね。」
タウロはそう言うとエアリスの手を握ると、『空間転移』を使って見せた。
するとタウロとエアリスは瞬時に消えて1メートル先の木の側に移動した。
「お、出来た。…やっぱり魔力量は二人分使ったかな…。『魔力操作』(極)で魔力量は減ったとはいえ、結構持ってかれたなぁ…。」
そう言うとタウロは魔力回復ポーションを飲んで魔力を回復する。
「じゃあ、今度はアンクも一緒に試すから手を握って。」
タウロはそう言うと右手にエアリス、左手にアンクと手を握ると『空間転移』でまた、1メートルほど先に一瞬で移動した。
「…ふー!流石に3人分の魔力消費はきつい…!でも、いけるみたいだ…!」
タウロはそう結果に満足すると、また、魔力回復ポーションを二本立て続けに飲んで回復を図った。
「私はいいのか?」
ラグーネがワクワクしながらタウロに確認する。
「ラグーネは別のお願いがあるからね。」
「そうなのか?…残念だ。」
ラグーネは1人だけ参加できなかったのでちょっと凹むのだった。
「じゃあ、ここから本番なんだけど…、ラグーネ。君の『次元回廊』の行き先は竜人族の村でいいんだよね?」
「ああ?…竜人族の村の、私の家の一室に出入り口を設定してあるが?」
「家には他に誰かいたりする?」
「兄がいるが私の部屋には入ってこないと思うぞ。それが何か?」
「いや、僕達が突然現れたら、驚かれるだろうから。あ、先に一度、ラグーネが行って確認して来て貰っていいかい?」
「?別に良いが、私の『次元回廊』は、私1人がギリギリ通れるだけだからみんなは無理だぞ?」
ラグーネはそう言うと、『次元回廊』を開いて一瞬で消えた。
5分ほど経つとラグーネが戻ってきた。
「すまん、兄にこれから友人が来るかもしれないと説明したら、要領を得ない話だと色々質問されて説明に手間取ったのだが、私も理解できてないから話しを打ち切って戻ってきた。」
「ご、ごめん。じゃあ、もう一回今度はすぐ移動せずに『次元回廊』を開いて貰っていいかな?」
「わ、わかった…!」
ラグーネは頭の中が疑問符だらけながら、『次元回廊』を開いてみせた。
「…じゃあ、みんな手を握って。…行くよ!」
タウロはエアリスとアンクと手を握ると、『空間転移』を使って『次元回廊』の異空間に飛び込んだ。
次の瞬間、タウロ達はどこかの室内にいた。
そして、目の前には竜人族とわかる男性が、驚きのあまり固まっている。
「…こ、こんにちは。」
タウロは、すぐに目の前の竜人族の男性がラグーネの兄だと理解して挨拶する。
手を繋いでいたエアリスとアンクも驚いて固まっていたので、タウロは冷静さを持って紹介をする。
「僕の名前はタウロと言います。ラグーネの友人です。こちらの二人は、エアリスとアンク。多分すぐにラグーネも来ると思うのでスペースを空けますね。」
タウロはそう言うと『次元回廊』の出入り口の側から二人の手を引っ張り離れる。
「ご丁寧にどうも。俺はラグーネの兄でドラゴ・ドラグーンと言います…って、君達は一体どうやって!?」
ドラゴと名乗った黒髪金眼でラグーネと似たイケメンである竜人族の青年は、正気に戻ったのも束の間、突然目の前に現れた人族の三人に動揺した。
そこへ、ラグーネが『次元回廊』を使って現れた。
「三人とも、もしやと思ってこっちに来てみたら、本当に来られたのだな!凄いぞ、こんな使い方、伝承でも聞いた事が無い!」
ラグーネはタウロの手を取って感心するのだが、ドラゴはラグーネの姿を見てさっきの妹の要領を得ない説明が、この事を指していたのだと理解した。
「ラグーネ。これは一体どういう事だ?お前が仲間を連れて来るというから、こちらに徒歩で直接向かって来ているのかと思ったら、『次元回廊』で連れて来るとは…。お前の力では自分自身だけしか無理だったはず…。まさか、複数人を運べる様になったのか!?」
ドラゴは聞きたい事は沢山あったが、妹の能力が新たに覚醒したのであれば、凄い事だったのでそれを聞くのを優先した。
「私の能力は変わってないんだ兄上。それよりもこちらの少年が流行り病から我々を救った命の恩人、タウロだ。」
ラグーネは、自分の仲間であり恩人であるタウロを自己紹介した。
「え?これまで決定的な治療法が見つからなかったあの病を症状を聞いただけで理解し、沢山の薬草と共に調合方法も教えてくれたという天才薬剤師のタウロ殿とはこの少年の事だったのか!?」
兄ドラゴは、村の救世主がまさかの子供である事を初めて知ってまた、驚くのであった。
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