第225話 竜人族の村(1)
竜人族の村の、ラグーネとその兄ドラゴが居を構える家の一室。
家主であるドラゴは次から次へと起こる出来事と情報に驚く一方だった。
突然、妹の友人を名乗る人族が文字通り突然現れたかと思えば、それは村の救世主であり、そしてまだ少年だったのだ。
さらには連れてきたのが妹の能力でそれが覚醒したのかと思えばそうでもないらしい。
となるとこの竜人族の村の幾重にも張られた結界を潜り抜けてきた事になる。
これは一大事ではないのか?
と、ドラゴは短い時間で混乱している頭を巡らせた。
いや、その前に救世主にお茶か?
いやいや、族長を呼んで今の状況を説明して…。
いやいやいや、急に外の人間を引き合わせてどうする!まずは自分が安全な相手か見極めないと…!
混乱する頭でドラゴは考えるのだったが、混乱していてまとまるわけも無く、救世主らしい少年が口を開いた。
「まずはみんな座って落ち着いた方がよさそうですね。ドラゴさんもまずは座って下さい」
家主の自分が言わなければいけない事を少年に言われて頷いた。
妹と少女はベッドを椅子代わりに、成人した男と少年はテーブルの横の椅子に、自分は扉の横に置いてあった椅子に座った。
「先程もご紹介して貰いましたが、僕はタウロと言います。僕達は冒険者でラグーネも含めたチームです。今日は、ラグーネの『次元回廊』と僕の『空間転移』を組み合わせた実験の結果、ここに訪れさせて貰いました。急ですみません」
タウロという少年が経緯について説明した。
「え!?『空間転移』!?」
少年の口から伝説級の能力の名前が出て来た事にドラゴは驚いた。
この少年の言う事が本当なら、この子は勇者スキルの持ち主なのか?
今や、竜人族の間でも『空間転移』能力を持ってる者はいない。
勇者スキルなら、今の世代でも持って生まれた者はいる。
だが、必ずしも『空間転移』を覚えるとは限らないのだ。
同じ勇者でも個性があり、そして、有能無能はある。
いやだが、勇者は数世代に一人とも言われる希少な固有スキルのはず…、この少年も持っているのか…?頭が混乱する!
「くっ殺せ…!…あ、すまない」
ドラゴはこの少年からもたらされる驚きの情報に混乱すると変な事を思わず漏らすのであった。
「「「え?」」」
タウロ達は最近、仲間の口から聞き慣れている物騒な言葉をその兄からも聞いて、
お兄さんも同じ口癖かい!
と、みんなで内心ツッコミを入れるのであった。
「えっと、その口癖?の事も気になるけど、ラグーネのお兄さん、まだ混乱してるみたいだから、ラグーネ説明してくれるかな?」
「兄上。タウロは勇者ではないが、『空間転移』を使える人物なのだ。ここに彼らがこられたのは、タウロが説明した通り、私の『次元回廊』とタウロの『空間転移』を組み合わせた結果なのだ。兄上、理解できたか?」
ラグーネは、兄が混乱してる事に普段ではもう中々言わない口癖が出た事からも理解していたので、落ち着かせる様に説明した。
「…すまない。動揺し過ぎた様だ。混乱するとこの村での修行時代がフラッシュバックするのでつい言ってしまうのだ。ラグーネは特に最近までその修行をしてたから特に言ってしまうのだが、みなさんそこは理解してやって欲しい。…ところでだが、つまり、ここに来たのは実験の結果で他意はない、ということだろうか?」
ドラゴは話をまとめて言った。
「はい。なので、この包囲網も解除、もしくは警戒を解いて貰えると、こちらも神経が刺激されずに済みます」
先程からタウロの『気配察知』には、とんでもなく強いと思われる人、竜人族の戦士達が家を囲んでいるのがわかっていた。
中には阻害系スキルで察知しづらい者もいる。
殺気は向けられてないが、押し潰されそうな圧力はこちらに外からかけられていた。
アンクもそれには感づいていて、冷や汗をかいていた。
「…ああ、すまない。外部の者が入ってくると感知して守備隊の連中が駆けつける仕組みなのだ。これ以上は、話はできないな。自分が一応、守備隊に説明するが、その後はみなさん族長に会って貰う事になると思います」
ドラゴはそう説明すると、部屋を出て家を囲んでいる外の守備隊に事情を説明しに行くのだった。
「私も、行ってくる。みんなはここにいてくれ」
ラグーネもそう言うと部屋を出ていく。
外では、「また、ラグーネか!」という声や、「何?『空間転移』!?」という声、そして「救世主殿が来てるのか!」という声がする。
そして、一通りざわつく空気が外から室内に伝わってくると、ラグーネが部屋に戻ってきた。
「隊長に説明したら、みんなを族長のところに連れて行くから来てくれという話だが、みんなどうする?」
ラグーネの言葉に、タウロ達は目を合わせた。
「…仕方ないよね?」
タウロがそう漏らすとエアリスもアンクも頷くのだった。
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