第223話 空間転移の話
冒険者ギルドが運営する味噌料理が評判の宿屋兼酒場兼食堂の『憩い亭』で食事を終えた4人だったが、家に戻る間にタウロが1つ思い出した様にラグーネに聞いた。
「ラグーネは僕の空間転移について何か知ってるみたいだったのを思い出したんだけど、どう?」
ラグーネがタウロの質問に答えようとすると、タウロの言葉にギョッとしたアンクが驚いて先に発言した。
「な!?リーダー、空間転移なんて伝説級の能力持ってるのか!?それが本当ならどこにでも行きたい放題じゃねぇか!」
「…ははは。僕のは残念ながら欠陥があるのか魔力を沢山使う上に、1メートルくらいしか移動できないけどね。あ、でも、最近、覚えた能力のおかげで魔力使用量はかなり減ったとは思うけどね。」
タウロが苦笑いしながら説明する。
タウロとしては空間転移の何か良い使い方について模索中でいくつかは思いついていたがラグーネが何か知っていればその内容次第でもっと幅が広がると思ったのだ。
「それは我々竜人族の間で言い伝えられてる通りなら、ダンジョン内で使用すれば最大限の力を発揮できると思うぞ。」
「ダンジョン内?」
タウロは首を傾げた。
言われてみれば、空間転移を覚えたのはダンジョン内だった。
だがそれは一体どういうことだろうか?
「竜人族の言い伝えで空間転移は、ダンジョンという次元の歪みから生まれた存在の中で移動するのに使用される能力と言われている。ダンジョンから発せられる魔力のおかげで使用者はほとんど魔力を消費せずにダンジョン内を一瞬で移動できるのだが、それにも条件があってダンジョン内の各階層に生まれる『転移室』同士での移動に限られる。ただ、これには続きがあって、各地のダンジョン間の移動も一瞬で可能にするというのが我が竜人族に伝わる極秘の情報だ。」
「ダンジョン限定なのか…。」
ラグーネのレア情報を聞いたタウロは喜ぶどころかガックリとうな垂れるのであった。
「ど、どうしたのだ!?これは凄い事なのだぞ?行った事があるダンジョン同士を行き来できて、さらには深い階層にも潜る事が出来るとなれば、竜人族のみんななら喜んで宴が始まるほどの能力だぞ!?」
ラグーネは『空間転移』が素晴らしい能力である事をタウロにアピールした。
「…ダンジョンって基本各国が管理してるから入れないし、ダンジョンに潜る事に興味も無いから…ね?」
そう、各地のダンジョンは基本、各国が管理運営していて一般冒険者は入るどころか近づく事もままならない場所だ。
入れるのはそれこそ、国から許可を受けた超一流、伝説級の冒険者達の一握りだけだ。
あとは国の関係者のみで、タウロが王国が管理する『バビロン』に入れたのは本当に特例と言っていい事だったのだ。
「…なるほど、そういう事か。確かに国が管理してるものが多いが、我が竜人族が管理するダンジョンも中にはあるぞ?」
ラグーネがさらりと竜人族の極秘中の極秘を漏らした。
「…あ、今のはもちろん秘密だぞ?私が漏らした事を族長に知られたら…。くっ殺せ…!」
よほど、族長は怖い人なのかいつもの口癖が真に迫っていた。
「…それは僕達も聞かなかった事にするよ。知っても潜る気はないし…。ラグーネの話しを聞いて、『空間転移』について自分が思い描いていた事があるんだけど、ちょっと試させて貰っていいかな?」
タウロは『空間転移』の可能性について考えていた事を試したかった。
「何をするのだ?私ならいくらでも協力はするが、『空間転移』については、知識しかないから協力出来る事はほとんど無いと思うぞ…?」
ラグーネは首を傾げてタウロが何を言うのか待った。
「成功した時の為に、ひとつ確認しておくけど…。竜人族の村って外部の人が突然押しかけてきても大丈夫なものかな?」
この質問には聞かれたラグーネだけでなく、黙って二人の会話を歩きながら聞いていたエアリスとアンクも「?」となった。
それは、まるでここから1か月以上もの距離がある竜人族の村に行けるかの様な口振りであった。
「外の人間が訪れる事はあるが、結界や阻害魔法を村には幾重もかけているから近づくこと自体がほぼ不可能だぞ?もちろん、私達竜人族の命の恩人であるタウロは大歓迎だが。」
「じゃあ、これから村の外れまで行って実験してみよう!」
「みんなを連れて実験なんて珍しいわね?」
いつもこそこそ1人でやろうとするタウロに驚くエアリスだった。
「これは、ラグーネがいないと駄目だからね。成功しそうならアンクも含めてみんなで訪問してみたいから。」
タウロはそう言うと先頭を切って家への方向から村の出入り口に向かう道に方向転換するのだった。
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