第222話 続・憩い亭で

 タウロとエアリス、アンクは結局静かにご飯を食べる事になった。


 そこへラグーネが偶然お店を訪れた。


「みんなここにいたのか。偶然だな!」


 そう言うとラグーネはアンクの横に座る。


「私には味噌野菜炒め定食を頼む!」


 ラグーネは従業員を呼び止めると注文した。


「珍しいわね。いつも『小人の宿屋』で食事するのに。それも、味噌野菜炒め。」


 エアリスが、ラグーネの変化に驚いて指摘した。


「そ、それは…。村に帰ったら太ったと族長に怒られたのだ…。くっ、殺せ…。」


 あはは…。やっぱり怒られるよね…。


 タウロ、エアリス、アンクは内心苦笑いした。


「そうだ、二人にちょっとしたプレゼントがあるんだけど。」


 タウロが、そう言うとマジック収納から作ったばかりの魔槍と大魔剣を取り出し、二人に手渡した。


「こ、これは…。ただの槍ではないな。…魔槍か!?」


 ラグーネは受け取ると柄を握ってその内包された力に気づいた。


「ラグーネの槍には、オーガの魔石を使用したのでラグーネ自身の耐久力上昇と、槍本体に地属性付与、あと、詳しくは言えないけど、『回復再生』も付与されてるから多少の刃こぼれは元に戻るよ。」


「…そんな性能の槍、竜人族の宝物庫にもあるかどうか…。」


 ラグーネは急な軽いノリでの超一級品のプレゼントに手が震えた。


「次にアンクのその大剣だけど──」


「おいおい!ちょっと待て、リーダー!食事の席で軽く渡されるレベルの品じゃないだろ!」


 アンクがタウロの想像を超えるプレゼントにツッコミを入れた。


「まあまあ、落ち着きなってアンク。結構会心の出来だから説明させて。その大剣はグリフォンの魔石を使用してるから本体に風魔法の付与で切れ味も上昇、アンク自身の俊敏性上昇。こっちも回復再生が付与されてるから刃こぼれを気にする事なく敵を斬れるよ。」


「…性能を聞いたらさらに引くわ…。こんなもの渡されたら夜もおちおち寝れないぞ…。」


 アンクが、現実問題を口にした。


「2つとも鑑定阻害が付いてるから他者が性能を知る事は出来ないよ。あと、二人の専用武器として作ったから他の人が使用してもろくに斬れないし、突けないと思う。」


「なんて贅沢な仕様なんだ…!普通、家宝として子々孫々に受け継がれるレベルの品なのに…。」


 ラグーネが、槍をじっくり眺めながらため息交じりにそう漏らした。


「遺伝子レベルで本人特定するイメージで作ったから、もしかしたら子孫も使えるかもしれない。試してないからわからないけど。」


「「イデンシ?」」


 二人は聞き慣れない言葉に、頭の上には疑問符が付いたが、とにかく凄い事は何となく分かった。


「…だが本当にこんなもの貰っていいのか?俺には何もお返しできないが…。」


 アンクも渡された大魔剣を上から下まで眺めながら言葉を漏らした。


「そうだぞ。私はタウロに恩がある身。何か上げなくてはいけないくらいなのに、この様なものを貰っては困る…。」


「恩とかいいって言ってるじゃない。僕達は仲間だからお互い助け合う事が出来ればそれで充分なんだよ。」


 タウロの言葉にエアリスも頷く。


「…参ったな。守るのが仕事だと思ってたんだが…。わかった、これからもよろしく頼む。」


「…このタイミングだからこそ言わせて貰うぞ。みんな私と血の盟約を交わして欲しい!」


 ラグーネが勇気を出して言ったのか顔を赤くして申し出た。


「あ、例のやつ?」


 タウロがずっとエアリスと気になっていたラグーネの真の仲間の証であるらしいものだ。


「例のやつ?」


 アンクは知らないので聞き返した。


「血の盟約は正直、同族としか交わした事が無い。だから、みんなは特別なのだ。くっ殺せ…!」


 はずかしくなったのかいつもの口癖が出た。


「それは僕達を真の仲間と認めてくれたって事だから嬉しいな。じゃあ、血の盟約を交わそう。どうやるの?」


「簡単だ。お互い手の平に傷をつけてその血を相手の口に垂らし、後はその手で握手を交わすだけだ。私達竜人族はそれを交わした相手の危機には必ず馳せ参じるのが習わしになっている。」


「…重いね。でも、わかった!じゃあ、ラグーネとみんなで血の盟約を交わそう。」


 タウロ達は手の平をナイフで傷つけるとラグーネと血の盟約を1人1人交わしていった。


 そこに、ラグーネが注文した味噌野菜炒め定食がやってきた。


「味噌野菜定食お待たせしました。みなさん、早く食べないと冷めちゃうわよ?」


 従業員の女性の言葉にタウロ達の間に笑いが起きた。


「じゃあ、ご飯食べよう。あ、その前にみんなポーションで治療して。」


 タウロがそう言うとみんなポーションで手の平の傷を治療し、食事を始めるのだった。

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