第221話 憩い亭で

 アンク専用の大剣作りは、提案者のエアリスが見守る中、時間と手間、コストはかかったが安全に最後まで行われ、昼過ぎには完成する事が出来たのであった。


「ふー…。相変わらず魔力は沢山使ったけど、エアリスのアドバイスのおかげで、死にそうになる事も無く何とか成功したね。」


 タウロは一息ついて安堵すると魔力回復ポーションを飲んで魔力を回復した。


 完成までに何本もポーションを飲んだのでお腹はタプンタプンだ。


「ご苦労様。これで、細分化すれば作れる物の可能性が増えて良かったじゃない。」


 エアリスがタウロを労った。


「…うん、だけど大変なのは変わらないから、これはあんまり使いたくない魔法だね。」


 タウロは苦笑いすると本音を漏らす。


「そうだわ。もう、お昼過ぎだし、『憩い亭』で昼食にしない?アンクも飲んでるみたいだから、いたらこの大剣も渡せば丁度いいんじゃない?」


 グー


「あ…。確かにお腹空いたよ。今日は、生姜焼き定食を食べようかな…。」


 タウロは丁度よく空腹を知らせる自分のお腹の音に苦笑いして答えると風の魔法を宿した大魔剣をマジック収納に片づけて村に戻るのであった。




 エアリスと二人で『憩い亭』に到着すると店内にはアンクの姿は無い様だった。


「アンクはいないみたいだね。来てるはずなのに…。」


「本当ね。もう、飲み飽きて移動したのかしら?」


 二人は店内をキョロキョロしながらアンクの姿を探したがやはりいない様だ。


「いらっしゃい二人とも。今日は何にしますか?」


『憩い亭』の従業員の女性がオーダーを聞きに来た。


「僕は生姜焼き定食、ご飯大盛りでお願いします。エアリスは?」


「私は、味噌野菜炒め定食。」


 エアリスもお腹が空いていたのか、食べる物は決まっていた様ですぐに答えた。


「はい。生姜ひとつ、味噌野菜ひとつですね。あ、タウロ君、味噌の仕込みを見て欲しいって料理長が言ってたわよ。」


 従業員はそう伝えると、厨房に戻って注文を伝えるのだった。


「あー、そう言えば、もう、作って熟成させてたお味噌を使い始めてるんだっけ。」


「最近、お味噌作りをタウロがしてなかったのは、そういう事だったのね?」


 エアリスは納得したという顔をした。


「やっと、このお店も独り立ちだよ。」


 タウロは頷くと、ちょっと見てくるねと言い、厨房に顔を出して地下に降りて行くのだった。


「お、エアリスじゃないか。リーダーはどうした?1人なのか?」


 タウロとは入れ替わりに丁度アンクが店内に入ってきた。


「あら、アンク探してたのよ?タウロは今、この店の地下に行ってるわ。それにしても、朝から飲みに行くって言ってたのにお酒の臭いしないわね?」


 エアリスがアンクの臭いを嗅ぐ素振りを見せると指摘した。


「あ、ああ…。あの後、用事が出来てその用事を済ませてたんだ。やっと今終わって、飲もうかと思ったんだ。」


 アンクはそう言い訳すると、従業員に声をかけて野菜の味噌漬けとお酒を注文した。


「ご飯は食べたの?私達もご飯食べるから一緒に食べれば?」


「そう言えばもう、もう昼過ぎてるな。じゃあ、俺も飯にするか…。そこの姉ちゃんすまん。味噌肉定食も追加で頼む!」


 アンクは従業員を呼び止めると、注文した。


「はーい!味噌肉ひとつですね!」


 従業員は注文を受けて、厨房にそれを伝えに行くのだった。


「…アンク何か隠してない?」


 エアリスが、勘なのか何か根拠があるのか質問した。


「…おいおい。俺は26だぜ?秘密の1つや2つあるに決まってるじゃねぇか。同室のリーダーにだって言ってない事もある。それを聞くのは野暮だぜエアリス。」


 アンクはエアリスの疑問を正面から受け止めてさらりと躱してみせた。


「…そういう事じゃないんだけど…。まあ、いいわよ。」


「そうそう、男の秘密は暴こうとせずに話すのを待つのがいい女の秘訣だぜ?わははは!」


 アンクは笑って誤魔化すのだった。


「僕は何となくわかるけどね。」


 エアリスとアンクの二人の側に急にタウロが現れた。

 どうやら、驚かせようと『気配遮断』を使って近づいてきたようだ。


「どわ!俺の背後を取るなよリーダー!」


 アンクはタウロの言葉に触れずにまた、再度、誤魔化そうとした。


「生姜焼き定食、味噌野菜定食、野菜の味噌漬けとお酒お待たせしました。味噌肉定食はもう少しお待ち下さい!」


 そこへ従業員の女性が料理を運んできた事で、ここまでの会話は一度有耶無耶にされ、アンクは内心胸を撫で下ろすのであった。

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