第194話 新たなメンバー

 ラグーネは深呼吸してため息をひとつつくと、真剣な表情になり口を開いた。


「では、竜人族族長の判断をお伝えします。『ラグーネ・ドラグーンを今日より、あなた達が望む限り、あなた達の剣となり盾となる事を申し付ける。ラグーネをよろしくお願いします』、との事です」


「それはお断りします」


 タウロが予想に反して断った。


「ど、どうして!?」


 ラグーネは予想に反する言葉に驚き戸惑った。

 誘ってきたのはこの二人の方だ、喜ぶと思っていたので戸惑うのは当然だった。


「僕達は、ラグーネさんの意思で判断して僕達の仲間になって欲しいと思い、勧誘しました。命令されたから僕達に付き従う様な関係は望んでいません。なのでまず、族長さんには、ラグーネさんの自由意思を尊重して欲しい。その上でラグーネさん自身が仲間になってもいいか判断して下さい。命令に囚われた人を仲間と呼ぶ事はできませんから」


 タウロがそう答えると、エアリスもその傍で頷いている。


「族長の判断だぞ?」


 ラグーネにとって族長の判断は絶対だ。

 タウロの言う違いが、いまいち理解できなかった。


「それでもです」


「……わかった。それではその言葉を族長に伝えてくる」


 ラグーネはそう答えると、次の瞬間には、また、その場から消えてしまった。


「やっぱり、タウロと同じ空間転移魔法かしら?」


「違う気がする。消え方が違うもの」


「あの消え方は、僕達がダンジョンで異空間に消えた時と同じじゃないかな?」


「それって……もしかしたら……、『次元回廊』かも!?」


 エアリスが思い当たる節があったのか興奮気味に驚いた。


『次元回廊』とは、使用者が設定した出入り口を通して遠距離を一瞬で行き来できると言われている特殊能力だ。


「ああ!それなら納得がいくね。確か勇者スキルが使えたという能力だっけ?」


「そうよ。それも、必ずしも使えたわけじゃない超レアな特殊能力よ!ラグーネさん、そんな能力が使えるのね。それなら、私達も竜人族の村に連れて行って貰えば良かったわね。族長と直接話せれば伝言ゲームみたいな事しなくていいのに」


 エアリスがもっともな事を言った。


「確かにそうだね……。帰ってきたら話してみよう」


 タウロが頷くと、丁度、ラグーネが戻ってきた。


「お待たせした。族長からの伝言を伝える。『ラグーネは今日より、竜人族のしきたりに縛られない自由な身になる事を宣言する。ラグーネの言動は全てラグーネ本人の判断に任せられる。』との事です」


 ラグーネはこの族長の判断に戸惑っていた。

 突然、しきたりに従わなくてよいと言われると、何をしていいのかわからない。

 自由なのはわかるが、行動の制限というのはある意味、生き方が楽だったのだ。


「それでは、ラグーネさん。改めて言いますね。僕達の仲間になって下さい」


「……これは、私の自由意思に任せられるのだな?」


 ラグーネがおどおどしながら、聞き返してきた。


「はい」


「では……。いきなり、仲間と言われても私には返答できない。君達が良い人である事はわかっている。だが、仲間とは私にとって信頼と友情、血の盟約があってこそだ。だが、君達の力になる事はやぶさかではない。協力はできる」


「確かに、そうですね。じゃあ、お互い妥協しましょう。ラグーネさんには僕達のチーム『黒金の翼』に入って貰って、一緒に冒険者をしてみて下さい。その上で、信頼と友情が芽生えたらその、血の盟約?を交わして下さい。もし、それが駄目だったなら、竜人族の村に帰って貰って結構です。もちろん竜人族は僕達に恩を感じる必要はありません」


「そんな事でいいのか?」


 竜人族は寿命が長いので人の人生の数十年に付き合わされるくらいなら多少の覚悟で済む。

 ラグーネとしては村の命の恩人に恩を返すのだからそれぐらいは躊躇なくできるつもりなのだが、聞くとかなり短い期間で終ってしまいそうだ。


「はい。それで良ければ、お願いします」


「私も、お願いします」


 タウロとエアリスが頭を下げた。


「わ、わかった!頭を上げてくれ、こちらこそよろしく頼む。これからは身命を賭して二人を守るぞ!」


 ラグーネは、二人へ誓いの言葉を告げた。


「いや、命は大事にして下さい」


 タウロがラグーネの決意を早々に否定した。


「チームになったからには、お互い助け合い、れっきとした”仲間”になれる様に一緒に冒険しましょう」


 タウロが、宣言すると、エアリスも頷き、


「ラグーネ、これからよろしくね!」


 とラグーネの手を取ると握手した。


「ああ、よろしく。……ところで、二人の名前は何だっけ?」


 ラグーネの言葉に、そう言えばちゃんと名乗っていなかった事を思い出し、二人は笑うのだった。

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