第192話 二人の悩み
ダンサス支部による格上のオーガ殲滅戦は死傷者を出しながらも勝利で幕を閉じた。
残念ながら、冒険者の中にも少なからず、ポーションや治癒魔法では助けられなかった者はいたのだ。
それでも、当初、救援自体を諦めてもおかしくなかった事を考えると大勝利だったと言える。
勝利の立役者ボブは、C-ランクになり立てだったにも拘らず、異例のCランクに昇格した。
それだけ実力が備わっていると判断されたのだ。
他の者もオーガ相手に結果を残したCランク帯冒険者は昇格を果たした。
ただし、Dランク帯から下のランクはギルドの規定通り、格上相手では昇格の審査対象にはならないので、村からの報酬とギルドからの特別報酬で報いる事にした。
タウロとエアリスも特別報酬とポーションの提供に対する対価が支払われた。
鑑定持ち受付嬢のカンヌが、二人に報酬を渡す。
「お二人とも今回の緊急クエストご苦労様でした。タウロ君のポーションの提供によって助かった人も多かったので、その分、割増してあります。それとオーガの遺体の回収、運搬にも寄与してくれたので、その分の報酬も含まれてます」
確かに、周囲を見ると他の冒険者が貰っているお金の入った革袋の大きさがタウロの分の方が大きかった。
「ありがとうございます」
タウロと、エアリスは、お礼を言うと、手続きを済ませて、ギルドを出た。
「今回、勝てて良かったけど、危うかったわよね……」
「そうだね。今回はボブさんが前衛として高い攻撃力でもって戦ってくれたから良かったけど、僕がもし、前衛ならああ上手くはいかなかったと思う。早く、『黒金の翼』の前衛を見つけないといけない事を痛感したよ」
「そうね。いくらタウロが器用で、立ち回りが上手いと言っても、前衛としてあんな攻撃力を出すのは難しいもの」
二人の意見は一致した。
今後は前衛をできる冒険者を募集する事にしたのだった。
ギルドの募集掲示板に『黒金の翼』の前衛募集を始めて一週間が経った。
ダンサスの村では『黒金の翼』は、実績十分だ。
誰か来るだろうと思っていたのだが……、そう、甘くはなかった。
『黒金の翼』のここ数か月の活躍はシンとルメヤ、その彼女達のものだった。
それ以前は二人の前衛が活躍し、エアリスが火力を出すというスタイルだったから魅力があったと思われていたので、シンとルメヤがいない今、マジック収納の荷物持ちでポーションを使うリーダーの少年タウロと、後衛のエキスパートの触れ込みながらまだ未完成の少女の印象を与えるエアリスは頼りなく見えてしまうのだ、なので背中を預けるに値するのか不安視された。
実際は、他のEランク帯冒険者よりも数段実績を残しているのだが、それらを他の冒険者はほぼ知らない。
クロエも二人の前衛探しに付いて他の冒険者に声を掛けて、実績も実力も保証するのだが、その冒険者ギルドダンサス支部長であるクロエも冒険者としてはほぼ、実績は無いので説得力に欠けた。
「……Dランク帯に上がる前に、前衛をみつけておきたいところだけど、これは難しいかもね」
タウロが、珍しくため息をついた。
「そうね。それによく考えると少年のリーダーに、大の男が素直に従う事の方が、珍しいものね」
エアリスもそれに同意する。
二人はシンとルメヤの存在が改めてどんなに大きなものだったか痛感するのだった。
二人は、この日も、クエストの為に森に入っていた。
いつもの薬草採取とゴブリン退治だ。
二人でのクエストはもう慣れたもので、エアリスに至ってはゴブリンとの立ち回りはタウロの指導の元、殴り杖として前衛職も真っ青の撲殺劇場を展開していた。
最初は、返り血を嫌がって腰が引けていたエアリスだが、タウロが『浄化』で頑固な汚れもエアリスの『清潔』魔法以上に綺麗にしてくれるのでそれも気にならなくなり格段に動きが良くなったので、他者が見たらその手慣れた動きに後衛職とは思えない程だ。
「おお!わが村の救世主、また、ここで出会えるとは思わなかったぞ!」
急にタウロの『気配察知』に引っ掛かる気配があると思ったらその人物から声を掛けられた。
聞き覚えがある女性の声だった。
茂みをかき分けてその声の主が現れた。
「「ラグーネさん!?」」
この場所にいるわけがない、竜人族の黒い長髪のポニーテールに、金色の目の鼻筋が通った美形の女性との再会に二人は驚くしかないのだった。
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