第132話 山村にて
坂を登り切るとタウロ達一行は、少し待ってみる事にした。
山村の住民が迎えに来るかもと思ったからだ。
五分ほど待っていると、細い山道から追い剥ぎを先導していたリーダーのバンディが若者を二人連れて慌てて走ってきた。
「お待ちしてました……!はぁはぁ……。言ってた予定日を過ぎても来ないからもう、現れないのかと……少し諦めかけてましたよ。ようこそお越し下さいました」
バンディはタウロを見てホッとした表情を浮かべると一行を歓迎した。
「それは、あなた達の村に案内してからにして頂戴」
エアリスがそういうと、バンディ達は慌てると「こちらです!」と答え、山村まで案内するのだった。
その村は、周囲が森林に囲まれていて自然豊かであったが、開拓がうまく進んでいないのか、田畑は狭く家々も粗末だった。
ただ、住んでいる人は意外に多い様で、生活を示す炊事の煙が各所から上がっている。
村長宅までの移動の間、バンディが村について説明してくれた。
「俺達は基本、狩猟と木こりの仕事で生活しています。田畑は生活に困窮しだしたここ数年、広げ始めました。でも、あまり、うまくいってません。ですがタウロさんからのお金のお陰で俺達はこの一週間、ちゃんとした食事が出来てます、ありがとうございます」
バンディが村人達に代わり、お礼を言った。
山賊まがいの事をした時の醜態とはうって変わって礼儀正しかった。
本来は荒事よりこういう方が向いてるのかもしれない。
だが、シンが剣の腕はあると評価していたので、剣のスキルも持っているのかもしれない。
「狩猟と木こり仕事はなぜうまくいってないんですか?」
タウロが困窮した原因を知りたくてバンディに質問した。
「ひとつには、材木の価格が下がってる事があります、もうひとつは……、あ、ここが村長の家です」
バンディが、話の途中だったが村長宅への到着を告げた。
バンディは室内に声をかけると中から慌てて1人の老人が出てきた。
「あ、あなたがタウロ様とそのご一行ですか!この度は、我々の村に大金をお貸し頂きありがとうございます!」
老人はその場に跪くと恭しく頭を下げた。
「あ、止めて下さい!」
タウロは慌ててバンディに救いを求める視線を送る。
バンディはタウロが困っているのがわかると慌てて老人に歩み寄る。
「村長!タウロさんが困ってるから、立って!」
バンディは村長に手を貸して立たせた。
「あ?すまん、バンディ。タウロ様を困らせるつもりでは……」
「とにかく、タウロさん達には中に入って貰うよ?」
「そうじゃな。みなさん、どうぞお入りください」
村長の言葉にやっと一行は一息つく事が出来たのだった。
家に招かれると、再度村長が感謝とお詫びをした。
その言葉にタウロは恐縮したが、バンディにした質問を今度は村長にした。
村長は頷くと、
「木材の価格が下がってる事に加え、森の獣が激減して罠にもかからず、猟でもあまり獲れなくなってきたのです。ここ数年は特に酷い有様で、それを打開する為に、見よう見まねで畑も広げてみたのですがうまくいってません」
と、答えた。
「農家の方に直接教えて貰わなかったのですか?」
タウロが、疑問を投げかけた。
「聞いたのですが、高地でやる畑はまた別物の様で、教わった通りにはうまくいっていません」
「では、今ある畑でこれを試してみて下さい」
タウロはオサーカスの街で購入した種をマジック収納から出してテーブルに広げて見せた。
「これらは?」
「こちらが、トメートの種で、こっちがトモローの種です。そして、これがカラシンの種。どれらも高地で育てるのに向いた品種の物なので試してみて下さい。詳しくは後で説明しますね」
「おお……!その様なものを!?丁度、これから何を植えるべきか話し合ってたところです。すぐに村の者達にやらせます!」
藁にもすがる思いなのだろう、村長は疑う事も無くバンディが連れていた若者の一人に、種を持たせると指示した。
「それと、外で周囲にジャガモーの葉を沢山見かけたのですが、あれは食用ではないのですか?」
タウロは前世ではジャガイモで、こちらではジャガモーと呼ばれていたが、その葉が畑ではなく路傍に見かけたので疑問に思ったのだ。
「ジャガモーですか?あれは、時期になると綺麗な花が咲きますが、実には毒があり、食べられる物では……」
「あ、そういう事ですか……。ジャガモーの芽と緑色に変色した部分には毒がありますが、その部分を抉り取れば、安全に食べれますよ。この事は村人全員に指導しておいて下さい。大事な事なので。調理法については、茹でたり、蒸かしたり、揚げたりと食べ方は色々あるし、何より沢山出来るのでお腹いっぱい食べれます」
そういえば、こちらの世界でジャガモーを食卓で見かけた事が無かった。
意外なところでこの村の救世主になりそうなものをみつけたタウロであった。
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