第131話 神箭手
タウロ達一行が、オサーカスの街を後にする日が訪れた。
リーダは名残惜しそうだったが、それは仕方が無いだろう。
商人として、この街は情報の宝庫だった。
いつ迄居ても、居足りないのが本音だったろう。
シンとルメヤもこの街がお気に入りになっていたので、また、来ようと二人で誓い合っていた。
みんな馬車に乗り込むとオサーカスの街はみるみる遠ざかっていくのだった。
帰り道は遠回りでも良かったのだが、来た路と同じところを通る事になった。
そう、山村に寄る約束をしていたからだ。
峠道までは数日かかる。
タウロはその間、時間が空くと新しい能力『
薄々感じていた事はある。
この『神箭手』が、基本ステータスに補正が付くという事にだ。
それも、「力」と、「俊敏」そして、多分「器用」が底上げされたのがわかる。
「器用」に関しては『精密』での補正が大きすぎて実感が沸かないが、「力」と「俊敏」に関しては、元が一般の子供に毛が生えた程度だった基本ステータスに、俊敏補正があるアンガス製の小剣を持っていなくても、明らかに俊敏性が上がって気持ち悪いくらい早く動けた。
そして、非力だった「力」は、弓を引く力がはっきりと軽くなって違和感しか感じないのだ。
さらに驚いたのは、『真眼』で周囲の警戒をした時に発覚したのだが、視える距離が増していたのだ。
肉眼でも弓矢の射程距離まで視える様になった。
これは、他の冒険者から聞いた事がある『鷹の目』(望遠鏡でものを視る様に遠くが視える)の様なスキルだと思うが、自分の場合は、弓矢の射程範囲なので『鷹の目』程の距離は視えないだろう。それでも、今までよりも遥かに視界が広がったのは確かだ。
とはいえ、視界が遮られるとその先は視えないので視え過ぎてもあまり意味はないかもしれない。
まあ、高いところから眺める分には楽しそうではある。
そんなこんなで、新たな発見に満足しながら、峠道に差し掛かるまでの間、タウロには充実した旅程であった。
そんなタウロを見てエアリスはタウロが何か試しているのはわかっていたが、一見しては、弓矢の練習を熱心にしている様にしか見えなかった。
だが、観察した結果、今までアルテミスの弓の能力で真っ直ぐ射抜く強引な力技だったのが、曲線を描いて隠れた的を射抜くという器用な事をやるようになったので、弓に関する能力を覚えたに違いないと予想するのであった。
そして、その予想の元、エアリスはタウロに
「今度は弓の何を覚えたの?」
と、カマをかけてきた。
「……えっと」
隠す事でもないので、エアリスに『神箭手』という能力について確認できた事を話した。
「凄いじゃない!初めて聞く能力だけど、複数の能力や補正が付くなんて、とても特別なもののはずよ!?」
エアリスはチート級な能力に呆れた。
タウロにしても、この能力を覚えられたのは、『精密』の能力とアルテミスの弓を入手出来ていたからで、普通にやっていてはまず得る事は出来なかっただろう、レベルのものだと理解していた。
まさに偶然だったが、おかげで、悩みの種であった「力」に補正が付いたのは大きい。
非力ゆえの戦い方を強いられてきたが、これでまた、多少違った戦い方も出来るはずだ。
それに俊敏も補正が付いたのは大きい。
小剣の補正と違い、装備していなくても常時補正が付く上に、これプラス小剣装備の時の補正も足すと、より一層動けるようになった。
ただし、体力は子供のそれなので、調子に乗り過ぎて動いているとすぐガス欠になる欠点はあった。
「僕、ぬるぬる動けるぞ!」
かばでぃかばでぃかばでぃ……
タウロは嬉しさのあまり左右に俊敏に動きながら前世のマイナースポーツをしてみせたが、それを目撃したエアリスに「……大丈夫?」と心配されるのであった。
タウロ達一行は峠道に入った。
登りが続くのでタウロ達『黒金の翼』は馬車から降りて歩いて斜面を上がっていると視界の遠く先に人が見えた。
こっちに手を振り、こっちが手を振り返すと何度かジャンプして喜びを示し、どこかに駆けて行った。
多分、山村の民だろう、村に知らせに行ったようだ。
見張りを立てる程、こちらが来るのを心待ちにしていた様だ。
いや、それはわかったけど、少し僕達を待って道案内してくれた方が早くない?
と、内心ツッコミを入れるタウロであった。
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