第120話 港湾都市
タウロ達一行は峠を越えるとその後は順調な旅だった。
途中も野宿は変わらなかったが、食事も睡眠も快適で全員タウロの『浄化』で衛生面も守られていたので困る事はほとんどなかった。
困ると言えばトイレぐらいだったが、エアリスが土魔法で壁を作り簡易トイレを用意したので女性陣二人は困らなかった。
そんな比較的に悪くない旅は続き、オサーカスの街まで、あと一日の行程で村に到着した。
数日ぶりの宿屋だったが、泊まった翌日の朝。
女性陣は不機嫌な顔で起きてきた。
部屋が最初、衛生的ではなかったので、エアリスの『清潔』魔法で綺麗にしなくてはならず、いざ寝る段階になると隣の部屋との壁が薄くて隣人の
男性陣も同じ様な状況だったが、タウロ達は改築前のダンサス村の『小人の宿屋』を経験してるので、あまり苦にはならなかったようだ。
まあ、野営の方が快適に感じたのは全員一致した意見だったが……。
そんな最悪の朝に出発し、オサーカスの街を目指した。
昼過ぎ、馬車はやっと土を踏み固めただけの凸凹の道から街道に入った。
なので石畳の道になり、馬車の揺れも落ち着いた。
ここに来てやっとリーダはホッとしたのかエアリスの横で居眠りを始めるのだった。
日が沈み始め、空がオレンジ色に染まる時間になった頃、馬車が丘を登り切り、眼下に旅の目的地であるオサーカスの街が入った。
港町は夕陽が小高い丘に遮られて暗くなり始めてたので、すでに各所で灯りが無数に点いて、この国内最大の港町は海を背に幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「すげぇ……、ここがオサーカスの街かよ……」
「ダレーダーの街が小さく感じるな……。それに海が大きい……」
ルメヤとシンは御者の横から顔を出すとこの規模が違う大都市に度肝を抜かれるのであった。
タウロも初めてみるこの港湾都市の規模に驚いた。
それにこの丘から眼下に広がる景色は圧巻だった。
この港町を作る時、丘から見渡せるのを計算して作られたのではないかと思えるほどの景色だった。
大抵のお上りさんはこの景色を見た時点で心奪われるだろう。
水平線はすでに暗くなっていてそこにうっすらと青い空が重なり、そして、夕暮れが続いて広がっている。
「……これは王都にも無い景色だね」
タウロは素直にそう感心すると、感嘆のため息を一つ漏らすのであった。
オサーカスの玄関である大城門に差し掛かる頃には空は暗くなっていた。
城門は煌々と明かりが灯り、早く家路につこうとする人達と馬車で短い行列が出来ていた。
タウロ一行もその行列に並ぶと城門の兵士が、御者の横からみんなでこちらを覗くタウロ達を見て
「お上りさんかい?オサーカスの街を楽しんで行ってや!」
と、独特の訛りで歓迎してくれた。
城門をくぐるとそこは、王都とはまた違う異世界だった。
道は王都程広くなく、人が増える度に広がっていったと思われる猥雑さだった。
建物もバラバラで頭上にはいくつも看板があり、大きいものは魔石でライトアップされてるものもあった。
なるほど、丘から見えた灯りは魔石の照明も沢山あったのだろうと、タウロは目の前の光景を見て納得するのだった。
「じゃあ、このまま、取引先が用意してくれた宿屋に行きますね?」
御者の男がリーダに確認すると、寝ていたリーダがやっと起きて、ボーッとしてたのでタウロが代わりに、
「お願いします!」
と、答えた。
御者は頷くと馬車に軽く鞭を打ち、馬を操り宿屋の方角に向かうのであった。
用意された宿屋は大通りからひとつ入ったところにあった。
大きさ的には中の下と言ったところか。
小さいマーチェス商会相手に用意した割には大きな宿屋だろう。
何より、取引先の商会の建物に近いのがいい。
相手は利便性重視でこの宿屋を取ったのかもしれない。
リーダが宿屋で手続きをするのを確認するとタウロ達はここの冒険者ギルドオサーカス支部に行ってここまでの護衛任務完了の報告する事にした。
それに宿屋もとらなければならない。
リーダの泊まる宿屋はリーダの為のものなので護衛のタウロ達には用意されていない。
報告後、ギルドで聞いておこう。
タウロ達が向かった冒険者ギルドオサーカス支部はダンサス支部と比べたらその大きさは段違いだった。
それに外装が派手で加工された魔石でライトアップされていた。
「趣味悪っ!」
エアリスがオブラートに包む事なく感想を述べた。
タウロはその感想を否定する事はなかった。
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