第102話 アルテミスの弓

 ボブには『魔刀』の出処については、秘密厳守で納得して貰った。

 もちろん、出処はタウロだが、『創造魔法』で作って死にかけているので、二度と作る事は無い。

 お願いされても、お金を積まれても応えられないから秘密にして貰うしかないのだ。



 数日後、シンとルメヤが、宿屋『小人の宿屋』を出る事になった。

 二人とも、物件が見つかったので一軒家に引っ越す事にしたのだ。


 引っ越し自体は簡単に済んだ。

 元々、手荷物が少なかったからだ。

 問題はここからで、二人の住んでいた各々の村に戻り、彼女を迎えに行く。

 その為、今日は休みにする事にした。


 という事で、タウロはまた一人、ある確認の為に村外れに来ていた。


 タウロは振り返ると、


「……で、エアリスさんは何でついて来たの……?」


 と、背後の女性に疑問をぶつけた。


「何でって、タウロが何かするつもりだったからでしょ」


 エアリスは当然の様に言う。


「当たってはいるけど……。僕にプライバシーは無いのかな。」


「そんな事どうでもいいじゃない。早くしましょう。今日は何?また創造魔法で何か作るの?それなら、もしもの場合、私がいた方が安全でいいでしょ?」


「僕のプライバシーを否定しないで……!」


 呆れるタウロだったが、エアリスはいないものとして、やる事にした。


 タウロはマジック収納から一本の弓を取り出した。


 一見、地味な白い色の弓で、覗き込んだエアリスの目にも何の変哲もなく映ったが、よく見ると木製ではなく金属にも見えない。

 よくわからない材質のようだった。


「それが、今日、試してみたい物なの?」


 エアリスがちょっと、拍子抜けしたという顔をした。


「そう。これ、ダンジョンの宝箱から入手したものだから、特別な能力でもあるのかなって」


 タウロは弓の表面を事細かに確認しながら答えた。


「え!?そんな話聞いてないわよ?」


「優先順位的に後回しにしてたからね」


「ダンジョンから入手したアイテムを後回しにするとか呆れたわ……」


「?ダンジョンのアイテムってそんなに特別なものなの?」


 タウロは詳しそうなエアリスに聞いた。


「ダンジョンから得られるものは特殊なものが多いの。あ、もちろんダンジョンが作り出した宝箱からのものだけよ?とにかくそういう事だから、ダンジョンは国が管理してるのよ。……それ、やっぱり迷宮核ダンジョンコアのそばでみつかったの?」


「そうだけど?」


 エアリスは少し考え込むと、答えた。


「……宝箱の中身は、迷宮の地下に行くほど、レアなアイテムが入手されるの。それは多分、迷宮核に近いほどレアになるのよ。出来立てのダンジョンとはいえ、迷宮核の側で得たアイテムならそれなりのものかもしれないわよ」


 そう言われると、凄そうな気がしてきた。

 仮にも迷宮核が壊される前に出したアイテムだ、より特別なものかもしれない。

 それに『真眼』で鑑定もできないのも気になっていた。

 名前入りの武器だし、もしかしたら良いものかもしれない。


 タウロは期待しながら、試しに木に向かって矢を放ってみる事にした。


 弓を引き絞るとタウロの手から軽く放たれた矢は、木に直撃すると深々と突き刺さった。

 タウロはギョッとする。

 明らかに、普段、タウロが射る威力より数段増してるのは確かだ。

 さらに、タウロは実験を続ける。


 次に軽く魔力を込めてみた、白い光が弓矢を包み込む。

 同じ様に木に向かって矢を放ってみた。


 光に包まれた矢は、木に易々と小さな穴を開けて貫通し、その線上の奥の木に深々と突き刺さった。


 これにはエアリスも驚いた。


「今のは多分、光魔法の『光の矢』を、纏っていたわよ!」


「そうなの!?」


 今度はタウロが驚いた。

 タウロは精霊の光魔法は『照明』程度しか使えない。

 これは貴重な攻撃魔法になる。


 ただし、夜は目立って仕方が無いので、使いづらいかもしれない。


「もしかしてだけど、矢を使わなくても打てるんじゃないの?」


 エアリスが、疑問を抱いた。


 確かに矢は、その辺で入手したものだ。

 その矢が無くても使える気がする。


 早速、タウロは矢を使わずに試してみた。


 矢が無いと変な気がするが、弓に魔力を込めて構えてみる。


 すると光の矢が現れた。

 木に向かってその光の矢を放つと、光の矢は木に吸い込まれ、小さい穴を開けて貫通して消えた。


 実験から、この『アルテミスの弓』は、光の矢が放てて、それプラス、矢の威力が加わる事になるわけだ。

 見かけは地味だが、その性能はとんでもないものだった。

 光の矢は使いどころに困るが、普通に弓として威力が増すのは助かった。

 非力で火力不足な自分にとって、これは大きなアドバンテージだった。

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