第84話 面倒臭い子

 目の前の少年が冒険者を名乗ったが、少女は信じなかった。

 自分が最年少冒険者として周囲から将来を期待されていると信じて疑わなかったからだ。


「あなたまだ子供じゃない!私より年下で冒険者なんてありえないわ!」


「そう言われても、実際冒険者ですしおすし……」


 タウロはとぼけてみた。

 忘れがちだが自分が異例なのは自覚している。


「あなたいくつよ!私は十四歳で『神官』『魔法使い』『結界師』のスキル持ちの最年少冒険者として、期待されてるのよ」


 見事に小ボケはスルーされた上に、少女は対抗意識丸出しだ。


「十一歳です。」


「な!なんでその歳で冒険者になれてるのよ!」


 ごめんなさい、実際になったのは八歳の時です、とはタウロは言わなかった。


「そうだ、ランクは!?きっとなりたてでしょ!」


「F+です。」


「Fの私より上!?」


 ちなみに資格はく奪前は、Eでしたともタウロは言えなかった、話がややこしくなるだけだ。


「じゃ、じゃあ、きっと凄いスキルでも持ってるのね。じゃないと私が負けるわけないもの!」


「文字化けスキルの一つだけです」


「文字化けって、クズスキルじゃない!喜んでいいのか、がっかりしたらいいのか判らないじゃないの!」


「タウロ君、さっきからこの女の子は何がしたいんだ?」


 シンとルメヤは二人のやり取りを傍観していたが、状況がいまいちわからないので、シンが質問した。


「うーん……、自分が最年少冒険者だと思っていた負けん気の強い、冒険者ギルドの場所を知りたい女の子?」


 タウロが大雑把に説明した。


「それでタウロ君に噛みついてるのか、災難だな。ともかくギルドまで案内しよう」


 ぶつぶつ文句を言う少女を、ギルドまで案内する事にした。


 すぐ辿り着くと、


「それじゃ、後は自由にね」


 と、タウロは言うと先にギルドに入ろうとした。


「ちょっと待ちなさいよ。あなた名前はタウロでいいのね?」


「……はい。じゃあ……」


「私はエアリスよ、覚えておきなさい!すぐにあなたを追い越して有名になる冒険者よ!」


 啖呵を切るエアリスだったが、タウロはこれ以上相手にすると、何かフラグが立ちそうだと思って相手にせず、そそくさとギルド内に入っていった。


「人が話してるんだから聞きなさいよ!」


 無視された事にエアリスは腹を立てて追いかけてきた。


 ギルド内まで追いかけてきたエアリスは、タウロに掴みかかる勢いだったが、ギルドのロビー内で他の視線を感じたのか大人しくなった。


 外でのタウロへの啖呵はギルド内部にも筒抜けだった。


「青春だな!」


「タウロ、絡まれたら相手してやれ。じゃないと女の子が痛い子にしか見えないからな!」


 冒険者達が茶々を入れる。


 中には、


「ダレーダー支部のエアリスか。なんだお前、こっちに来たのか?」


 と、冒険者の中にはエアリスを知ってる者もいた。


 それなりに有名らしい。


 エアリスは不服な顔をしていたが、本来の目的である手続きをしようと受付に行く。


 タウロはシンとルメヤと一緒にクエストを選ぶ。


「コボルト退治があるよ、タウロ君」


 ルメヤが、近くの農家からの依頼をみつけた。


「それじゃあ、そのコボルト退治と、薬草採取を受けましょうか」


 と、タウロが提案すると、二人は賛成した。


 受付に持って行くと、支部長であるクロエが受付嬢をしていた。

 もう一人の受付嬢と二人体制で忙しい朝の業務をこなしていた。


「あ、タウロ君。新人さんがいるから、薬草採取のコツを指導してくれない?」


 クロエが指さした先にはエアリスがいた。


 早速フラグ回収かよ!と、内心ツッコミをいれたタウロだったが、クロエのお願いだ、無下にもできない。


「……えーっと、薬草採取のコツの指導をさせて貰うタウロですよろしく……」


 残念感で声が小さくなっていくタウロだった。


「ちょっと、何よそのやる気の無さは!私だってあんただと思ってなかったわよ!」


 エアリスは憤慨したが、シンとルメヤも一緒なので、大人しくなった。


「僕達三人はその後、コボルト退治もあるので、薬草採取は早めに切り上げます」


 と、タウロが言うと、


「コボルト退治?それなら私も付き合って上げるわ。感謝しなさい」


 エアリスは当然とばかりに言い放った。


「え、お願いしてないから」


 タウロははっきり答えたが、エアリスは無視するのであった。

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