第83話 新たな出会いの予感

 ダマスキー商会の悪行は大手のガーフィッシュ商会と商業ギルド副支部長の証言で表沙汰になった。

 これはマーチェス商会の開業の打ち合わせでエドが商業ギルドの副支部長を呼んだところにダマスキーが偶然、墓穴を掘りに来たのが原因だったが、おかげで表沙汰にはなりそうになかったこの件は、正式に商業ギルドからダマスキー商会への罰を下す形となった。


 その結果、ダマスキー商会は一定期間の営業停止と罰自体は軽いものだったが、同業者の騙し討ち行為は、他の取引相手からの信用を失う事に繋がったので、営業再開後にどれだけ損害がでるか予想もつかなかった。


 まぁ、自業自得だから同情の余地はない。



 マーチェスは今回の事で、タウロに大いに感謝した。

 タウロが資金と人脈を提供してくれなかったら、自分は破産して商人として終わっていただろう。

 だがタウロとの契約上、全て秘密にしないといけない。

 本当ならタウロを讃えてダンサスの村中で吟遊詩人ばりに謳ってその救世主ぶりを伝えて回りたかったのだが、本人が嫌なら仕方がない。


 マーチェスは商人として契約はちゃんと守る。

 そして、恩義はこれからじっくり返して行こう、借りたお金も、安くないし……。




 ダンサスの村は着実に発展しつつあった。

 訪れる冒険者も増えた。

 近隣にも評判は広がり、村々から若者達も集まるようになった。

 そんな雰囲気を感じて、商業ギルドがこの村に支部を作る計画も上がっていた。


 最早、寂れていた面影は無くなったと言っていいだろう。


 今日もまた、宿屋に新規のお客がやってきていた。

 タウロはもう、この『小人の宿屋』の常連客だったので人の出入りもよくわかっていた。

 街で挑戦するにはお金が無いが、成功を夢見て訪れる若者がかなり増えた。


 いい傾向だ。

 もちろんその若者の多くはお金をここで貯めると、さらなる成功を求めて大きな街に行くだろうが、中にはこの村に馴染んで居着く者も必ず現れるはずだ。

 それがこの村により大きな発展を促すだろう。

 若者が居着いて離れがたい村作りを今後も続けようと思うタウロだった。



「ちょっと、君いいかな?」


 タウロが一人、感慨に耽っていると女性に話しかけられた。


 年齢的に自分より少し上だろうか?

 金色の長髪に赤い瞳、背丈はタウロより高く、ゆったりした神官風の白を基調としたデザインの服を身に纏っていた。

 将来美人になるだろう、とタウロは思ったが、言い方が少し高圧的なのが自分の好みじゃないとも思った。


「何ですか?」


 タウロはその様な想いは微塵も見せずに応対する。


「私、冒険者なんだけど、ここは初めてなの。ギルドに案内してちょうだい」


 この子は僕を宿屋の従業員と思っている様だ。


「外に出て大通りをまっすぐ行くと青い屋根の建物があります、それが冒険者ギルドです。すぐわかると思いますよ」


 タウロは、気分を害さず、素直に教えた。


「……案内してって言ってるのに、自分の仕事理解してるの?」


 あ、やっぱり従業員と勘違いしてる様だ。


「じゃあ、案内しますが、僕にも準備があるので、少々お待ち下さい。どちらにせよ、僕も冒険者ギルドには行くので」


「ちょっと、お客を待たせる気なの!?」


 その少女の言う事を無視して部屋に戻るといつもの革鎧を身に付けると小剣を佩き出かける準備をした。


 そこにシンとルメヤが声をかけてくる。


「タウロ君そろそろ行くかい?」


「うん、ちょっと女の子に道案内頼まれてるから一緒にいいですか?」


「?もちろんいいけど、道案内?」


「ええ、同業者みたいなので、ギルドまで案内します」


「「そういう事か、わかったよ。」」


 二人は頷いた。



 ギルドに案内するだけで何で待たされるのよ!


 少女はお怒りモードだった。


「お待たせしました。」


「ちょっと案内くらいで人を待た──」


 少年の声に怒りながら振り返るとそこには、大人二人を引き連れて革鎧を身に纏った少年が立っていた。


「それじゃ行きましょう」


「…何よその恰好。」


 少女は少年の恰好と大人二人がいる事に動揺してそういうのが精一杯だった。


「これが普段の恰好なので気にしないで下さい。この二人は同僚のシンとルメヤです」


「よろしくな、お嬢ちゃん」


「宿屋の従業員の同僚……?」


「え?どういう事?」


 シンとルメヤは自分を指さして宿屋の従業員?と、状況がわからず戸惑った。


 そこでタウロが答える。


「あなたと同じ冒険者ですよ」


「嘘でしょ!?」


 少女は驚くとまじまじとタウロを見つめるのだった。

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