第53話 潮時

 タウロは釈放された。


 これには街の者、冒険者達、ギルド職員みなが喜んだ。

 だが、タウロの変わり果てた姿にみな驚いた。

 ギルドのマスコット的存在であった愛らしい姿は見る影も無く、その体はやせ細り、傷だらけで、弱弱しかった。

 ネイなどは初めてタウロと出会った時を思い出したのだろう、涙を浮かべて抱きしめた。

「……ただいま帰りました……」


 か細い声のタウロにネイはついに、抱きしめたま泣き崩れた。


「お帰りなさいタウロ君……!」


 とだけ言うとネイは号泣するのであった。




 サイーシ子爵の蛮行に、冒険者ギルドは怒り心頭で、商業ギルドもガーフィッシュ商会の動きもあってサイーシ子爵を批判した。


 サイーシの街は険悪ムードであった。

 子爵の評判は地に落ち、タウロには同情の声が殺到した。

 とはいえ、相手は領主である。

 表向きは静かなものであった。




 タウロは三か月の間、地獄の日々だった。

 暴力に限界は無く、昨日、10発殴られれば、今日は11発殴られる、エスカレートはしても落ち着く事はない。

 食事も出されない事はしばしばあり、人気者だった少年に対し見張り番の嫌がらせもエスカレートした。

 時には少量だが毒が入ってる事もあった。

 だが、わかっていても食べるしかなかった、食べないと生きていけないから。

 毒の痛みにのたうち回り、あまりの苦痛に限界を感じ、謂れのない罪を認めて、楽になろうかと諦めかけた、その時である。



「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<あらゆる苦痛に耐えし者>を確認。[状態異常耐性][状態異常回復]を取得しました」


 獄中生活2か月目を過ぎた頃に聞こえた、この『世界の声』に救われる事になった。


 その能力のおかげで気持ちを強く保つ事ができた。

 毒耐性、苦痛耐性、麻痺耐性など、あらゆるものに対応していたのだ。

 完全に大丈夫というわけではなかったが、最初の2か月に比べればその苦痛は、地獄から天国であった。


 こうして、タウロは地獄の3か月を乗り切れたのである。




 タウロはポーションと治癒士の魔法による治療で外傷は治せた。

 が、内傷はまた別である。

 その治療は薬と時間が必要であった。


 当分はベッド生活だと医者に言われたので、


「フワフワのベッドで寝れるだけ幸せですね」


 と、冗談を言ったら、ネイには泣かれてしまった。


 支部長レオには、


「冗談が言えるなら、大丈夫だな」


 と、言われたが、ネイさんの前では、当分は自虐ネタを言うのは止めておこう、と思うタウロであった。




 タウロはこの日、11歳の誕生日を迎えていた。

 やっと体調が戻り、痩せこけた体も元に戻りつつあった。


 そこに『世界の声』が脳裏に響く。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<追い詰められし死の間際から復活せし者>を確認。[超回復再生]を取得しました」


「……誕生日に何だか凄そうなの覚えた……」


 ギルドの中庭で1人、剣を振るうタウロは、苦笑いするのであった。



 タウロの体調が戻り、冒険者復帰する事になったが、釈放から復帰するまでの数か月間、サイーシ子爵側からの訪問は一切なかった。

 もちろん、手紙の類も無しである。

 これには支部長レオも怒りが収まらず、当分は領主の依頼は受けないと宣言してしまった。


 タウロはレオが自分の為に怒ってくれるのは嬉しいが、関係が悪化する事は望んでいなかった。

 かと言って、タウロ自身はサイーシ子爵を許す気は無いのだが、レオ達が憎み合うのは嫌だった。


「……潮時かもしれないなぁ」


 タウロは数か月間、ずっと考えてた事が脳裏によぎり、思いに耽るのであった。

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