第54話 その目的地は無く…

 数か月ブランクがあるタウロは、G-ランクからやり直していた。

 こればかりは冒険者ギルドサイーシ支部長であるレオでも、どうする事も出来ない。

 ギルドの決まりである。

 2か月以上クエストもせず、放置はランクの降格、5か月以上だと資格のはく奪である。

 例外は、B級以上(一流)の冒険者からで、その規定から外れる。

 長いクエストが当たり前になるからだ。


 タウロは5か月を超えていたので、資格をはく奪され、もう一度、手数料を支払い登録し直した。

 今度は、「タウロ・サトゥー」ではなく、ただの「タウロ」で登録した。

 父親が盗賊の残党として手配されている以上、「サトゥー」の姓を名乗るのは抵抗があった。

 それに、今後の事もある。

 タウロ・サトゥーの名は良くも悪くも貴族や王家の中でも知られる事になった、今の自分には重過ぎる。


 なのでただの「タウロ」でやり直しだ。




 黙々とタウロはお使いクエストをやっていた。

 城壁補修の石材運びである。

 久しぶりに本格的な運動なので息が上がる。

 だが、地獄と療養の期間の後だ、体を動かしている事に幸せを感じられる。

 自由が尊いものである事を実感する瞬間であった。


 罰則でお使いクエストをやっていた冒険者が、


「タウロ、大丈夫か?無理だけはするなよ」


 と、声をかけてくれる。


「大丈夫です!」


 タウロは元気よく答える。

 冒険者は頷くと作業を続けるのであった。




 タウロは安らぎ亭のマージンについて、レオに提案していた。


「こっちが、権利を買い取る?」


「はい。そうすれば、マージンを払い続ける必要がないでしょ」


「お前はそれで、いいのか?」


「はい。引っ越しを考えてて、自分の部屋を持ちたいなって」


「それで、まとまった金が欲しいのか?」


「そんなところです」


 レオは考え込んだが、


「お前が良いなら買い取ろう」


 金額はタウロが安く提示したが、レオが納得せず、タウロの提示の数倍の額を受け取る事になった。


「カレー屋ですが……」


 タウロが口にすると、


「それは駄目だ」


 レオが即答する。


「あれは一からお前が作り上げ、資金もお前が出した代物だ。運営はうちがやるが権利は持っとけ。冒険者ギルドがあるところなら、どこでもお金は引き出せる」


 タウロの考えてる事を察したのか、レオは意味ありげに答える。


「ありがとうございます」


 タウロが深々とお辞儀する。


「そういうのはいいと、ここで初めてあった時言っただろ」


 そういうと、レオは出ていけと後ろを向き、手を振る。


 その後ろ姿にまた、お辞儀すると支部長室から退室した。



 ネイが受付をしている。

 2階から降りてくるタウロが視界に入ったのか気づくとウインクしてきた。


「タウロ君、お使いクエスト大丈夫だった?」


「はい、息が上がりましたけど、やっぱり体動かすの良いですね」


「うん、元気になって良かったわ」


 ネイが数か月前を思い出して涙ぐむ。


「止めて下さいよ」


 笑顔でタウロが言う。


「ごめんなさい。最近涙腺がゆるくて」


「そうだ、ネイさん。王都にまた行くので、護衛を1人頼みたいので書類作成お願いできますか?」


「王都に?ああ、あっちの関係者への挨拶回りね。まだ、手紙でしかお礼言えてないって言ってたものね、わかったわ」


「ありがとうございます」


 タウロは、深々とお辞儀をする。


「ちょっとタウロ君、頭が低い低い!」


 冗談だと思ったのだろう、ネイは笑って手を振って遮るそぶりをみせるのであった。




 王都に出発当日の朝、レオが見送りに来た。


「レオさん、どうしたんですか?」


 同じく見送りに来たネイがレオの姿があるのに驚いていた。


 護衛はミーナだった。


「忙しいはずなのに、ぼくの護衛なんかいいんですか?」


「うん、タウロと王都に行くのは楽しいからね」


 あちらで片道だけなのを伝えるのは辛いな、と思いながらも頷く。


「じゃあ、護衛、よろしくお願いします。それでは、レオさん、ネイさんお見送りありがとうございます。行ってきます」


 ここでも、タウロは深々とお辞儀をする。


 一生分のお辞儀のつもりだった。


「ちょっとタウロ君、長いよ」


 ネイが、笑って手を振る。


 頭を上げ、二人を目に焼き付けると、タウロは、お世話になったサイーシの街に心の中でお礼を言い、新たな安住の地を求めて旅立つのであった。


 ──第一部 完結──

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