第51話 獄中生活

 タウロへの逮捕状は不当なものだったが、出たものはどうしようもなかった。


「ふざけんなよ!」


 騒ぎに気づいて自室から出てきた支部長レオが、状況を職員に聞いて怒り狂ったが、領兵に手を出させるわけにはいかない。

 その場の冒険者達が必死になって止めた。


「抵抗は許されない、邪魔する者は逮捕される事は知っているな。大人しくサトゥーを差し出せ」


 タウロは動揺したが他の冒険者にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 ネイが止めるのを宥めると腰の小剣をネイに預けると、前に出た。


「では、タウロ・サトゥー、逮捕する」


 みんなの前でタウロは手枷をされ、領兵に両方から腕を取られると強引に連れていかれる事になった。


「タウロ、安心しろ!ギルドが全力で出してやるからな!」


 レオの声が背後から聞こえてきた。

 ネイのタウロを呼ぶ悲痛な声も。


 タウロは容疑者として牢に収監される事になったのであった。




 尋問は昼夜問わず行われた。


「お前の父親が盗賊である事は事実だろ!」


 尋問官が何度目かの同じ質問をしてきた。


「ですから、その事実の前から自分は冒険者としてギルドにお世話になっていました。知ったのは、討伐クエスト直前の探索クエストです。実際、報告もしています。盗賊の一味ではありません」


「だが、お前の父親は逮捕されず逃げている。お前が逃がしたんだろう!」


「逃げたと思われる時、自分は他の冒険者と一緒に戦闘に参加してました」


「情報をお前が流したんだろう!」


「それだったら、急襲自体が、失敗してたと思うのですが……」


「だまれ!」


 怒声と共に殴られる。

 ずっと、この繰り返しだった。

 都合が悪くなると殴って黙らせ、また、質問し殴る。

 罪を認めて楽になれとも言う。

 だが、認めるという事は死刑を意味する。

 盗賊行為は全て縛り首が原則だからだ。


 タウロは心が折れそうだったが、レオやネイ、冒険者のみんなが助けてくれると信じて、耐える事を選んだ。


 尋問が深夜に終わると牢に戻される。

 地下にある独房だ。

 最初は、じめじめとし、かび臭く、不潔でネズミや虫がいたるところを這いずり回り気持ち悪いところだったが、『浄化』を使って綺麗にした。

 これに気づいた、見張り番が特殊な手枷をタウロに嵌め直した。

 魔力を封じるものだった。

 おかげで今はマジック収納も使えず、ろくな食べ物にありつけないでいた。


 冷たい石畳の上で短い睡眠をとると夜明けと共に尋問の始まりである。

 朝からまた殴られる。

 タウロは生傷が絶えない状況だった。




 ギルド支部長レオの領主への直談判も虚しく、日数だけが過ぎていった。


 タウロの逮捕を知った、ガーフィッシュ商会サイーシ支部の支部長パウロも動いてくれた。

 王都で助けて貰えるよう働きかけてくれと会長宛てに手紙を書いて商会本部に早馬を飛ばしてくれたのだ。



 ──王都。

 タウロ逮捕から、2週間が経っていた。


 マーダイ・ガーフィッシュは、王宮の一室にいた。

 宰相の執務室だ。

 ガーフィッシュ商会のコネとお金をばら撒いてやっと今日、宰相にアポイントが取れたのだ。


「バリエーラ公爵宰相閣下、この度は忙しい中、面会して頂きありがとうございます」


「前置きはいい。忙しいから1分で要件を頼む。ここのところ、仕事が立て込んでいてな、久しぶりだが割く時間がほとんどない」


「は、はい!実はタウロ・サトゥー殿の件で」


「サトゥー殿?おお、久しい名だな。元気にしているか?」


「それが、タウロ殿が無実の罪で逮捕され、牢に繋がれているんです。助けて頂けないでしょうか!」


「何?詳しく話せ。担当官、スケジュールを調整せよ!」


 宰相はサインし終わった書類を部下に渡すと共に、そう言い放った。

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