第50話 領主と揉めまして…
サイーシ子爵からの要請は、再三に渡った。
最初は箔付けにと、家臣の末席にどうだという話だったが、まだ、10歳と知ると、子爵付きの小姓に取り立ててやろう、という上からのもの言いに変更、これには支部長レオが憤慨し、ギルドにとっても大事な一員だと、タウロを通さずに断った。
すると、今度は子爵の使いがタウロに直接、接触してきた。
タウロがギルドから出てくるところを待ち伏せしていたのだ。
使いは、子爵の子供の遊び相手として召し抱えてやる、贅沢ができるぞ、楽な仕事だよ、とその辺の子供を諭すような説得を試みてきた。
もちろん、タウロは断った。
「ぼくはこれからも冒険者として生きるつもりでいますので、その申し出は辞退させて頂きます。領主様にはそうお伝え下さい」
タウロなりに丁寧に伝えたつもりだったのだが、どう伝わったのか、子爵はこれに激怒。
捕らえて連れてまいれと兵を出す騒ぎになり、ギルド前で、冒険者と領兵が睨み合う事態に発展、支部長レオが出てきて責任者と話し合う事になった。
「で、なんでこんな事態になった」
レオが顔見知りなのか、領兵を指揮する隊長に気を使う事なく憮然とした態度で聞いた。
「その噂の子供が、そんな条件で受けれるか!と領主様を侮辱したとかで、それはもうお怒りになってます」
隊長はレオの事をよく知ってるのか丁寧な言葉遣いだった。
「噂?」
「ええ。今、この街で自分より人気のある子供冒険者だと噂を知り、不快感を持たれた様で、そこに侮辱的な言葉を吐かれたと使いの者が領主様に訴えたのでこの騒ぎに」
「タウロは侮辱的な事を言うような奴じゃない。噂とやらをちゃんと聞いてればタウロが暴言を吐くような人物でない事はわかると思うが」
「自分もそう言ったのですが……」
「ともかく、領主様には俺が話をするから、騒ぎが大きくなる前にとっとと帰れ」
レオの一言で領兵達は追い返された。
この騒ぎは街に波紋を広げた。
領民はタウロの良い噂を知っている。
最近では、盗賊討伐でも活躍し、それも人形劇の題材になっているほど有名な話だ。
だが一部では、だからこそ調子に乗ったのではないか、と勘ぐる者も現れた。
根も葉もない憶測だが、言う方はもっともらしく話をするものだ。
噂は街を二分し、タウロは心を痛めた。
「気にしないでタウロ君。噂はすぐ静まるわよ。根も葉もない話なんだから」
ネイがタウロを心配して励ましてくれた。
「そうだぜ、お前がいい奴って事はここの冒険者はみんな知ってるからな」
ネイの言葉に賛同する様に、受付ロビーにいた冒険者達が口々に励ましの言葉をかけてくれた。
「気にするなよ」
「うちの子なんて、サトゥーのファンだからな」
「あんな噂信じてるのは、ごく一部だぜ」
タウロは胸がいっぱいになった。
コツコツと積み重ねてきた事が一番大事な信用として返ってきた思いがした。
「みなさんありがとうございます」
泣きそうな想いを抑えるのにタウロは必死であった。
数日後の朝、またしても領兵が物々しい雰囲気でやってきた。
「タウロ・サトゥーはいるか!」
ギルド前は前回同様、領兵と冒険者が睨み合いの状況に陥った。
「タウロ君、出ちゃ駄目よ」
丁度、今日の張り出されたクエストを見ていたタウロが出ていこうとしてネイに止められた。
ギルドの建物内に入ってきた領兵が発見し、タウロに詰め寄ろうとしたが、冒険者達が間に入り、押し合いになった。
そこに、隊長が出てくると、
「タウロ・サトゥー、お前には盗賊の一味の疑いで逮捕状が出ている、大人しく我々に同行して貰おう」
と言い、逮捕状を広げてみせた。
「「「逮捕状!?」」」
これにはタウロのみならず、ロビーにいた冒険者、職員も驚くのであった。
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