第34話 無駄にシリアス

 タウロと一行は貴族達が取り囲む中、宰相バリエーラ公爵に誘導されて前へ前へと移動した。

 先には机があり、タウロが製作した限定盤が置いてある。


「お集りのみなさん、このリバーシを発明した方の一番弟子であり、今日私達の指南役の少年です。拍手を」


 宰相の言葉に合わせて拍手が居合わせた者達から鳴り響く。


「それでは、まずはデモンストレーションで、私が3局ほどお相手願いますかな」


 それはつまり、タウロの実力が試されるという事だった。


 10歳の子供を晒しものにするような大人げない事するの!?という気持ちだったが、宰相側にしてみれば、指南役を頼んだら、10歳の子供を送られてきたのだ、馬鹿にされているのではと思ってる可能性がある。

 これは、本気でやる必要があった。


「わかりました。それではお願いします」


 タウロはお辞儀をすると、宰相が座るのを確認してから椅子に座った。


「庶民の子供にしては礼儀をわきまえてるではないか」


「…ほほう」


 見物の人々から囁き声が聞こえる。


 この展開に、ガーフィッシュとパウロは、青ざめている。

 宰相相手にタウロは実力を証明しつつ、花も持たせなければいけないのではないか。タウロはそれができるだろうか?と、それどころか惨敗したら、連れてきた商会にも責任が及ぶかもしれない。

 そこまで思い描くと二人は気が気でならなかった。


「それでは、先行でどうぞ」


 タウロが宰相に先手を譲る。


 試合が始まった。

 序盤、宰相は次々と黒の面を増やし、タウロは劣勢になった。


「一番弟子という割に、大した事ないな」


「いやいや、宰相殿が強すぎるのですよ。この数日、宰相殿の強さはみなが対戦して抜きん出てるのを確認しておりますから」


 観戦者の貴族達は声をひそめてこそこそと話しているが、タウロの耳にも届いていた。


 やっぱり、やり込んで来てたのか、道理で……。


 と、タウロは思った、だがしかし、最初からタウロは油断していなかった。


 リバーシではコツがいくつかある。


 そのひとつに、序盤は取り過ぎない、というものがある。

 宰相をはじめ、観戦者達はみな、このコツを知らない。

 終盤に入り、タウロが反撃する、もうひとつのコツ、四角を取り、気づくとタウロが圧勝していた。


「……さすがは一番弟子殿だ。辛くも逆転しましたな」


「ふむ、だが宰相様の序盤の猛攻も素晴らしかった」


 序盤の圧倒的な宰相有利があったので、たまたまだと思ったのだろう貴族達は、根拠のない憶測を各々が口にしていた。


「さすがは発明者の一番弟子、指南役に指名されただけはある。それでは気を取り直して、2局目といきましょう」


 宰相自らの進行と共に、2局目が始まった。


 またも、宰相の圧倒的有利に進み、観戦者は宰相の有利を褒め称える。

 だが、終盤に入るとまた、タウロが反撃を開始し、気づくと逆転していた。

 同じ展開に偶然を囁く者、わざとでは?と、疑念を持つ者、相手は10歳の少年だからとそれを否定する者、憶測が憶測を呼び異様な雰囲気に室内は包まれた。


「……これは強い。……ふむ。3局目を始めようか」


 宰相も思うところがあったのか、笑みは消え、言葉に余裕も無くなっていた。


 3局目も序盤から宰相の圧倒的有利が進み、この展開に室内の異様な雰囲気は最高潮になっていた。

 中盤は四角の取り合いになった。

 争奪戦の末、お互い二角を取り合う格好になった、だが終盤、タウロの反撃に差を縮められ終局を迎えた。


「……3局目、32対32で引き分けです」


 盤上の石を数えて確認して宰相の側近が発表した。


「ありがとうございました」


 タウロは立ち上がってお辞儀をする。


 3局目は宰相の粘りに内心焦ったが、なんとか引き分けに持ち込めた。

 だが、観戦者達はこの終局を偶然とはみなかった。

 3局とも序盤は宰相の圧倒的有利からのこの流れである、この少年がわざと最後は引き分けにしたのではないか?という思惑に室内の全員は囚われた。

 タウロとしてはリバーシのコツを実践しただけなのだが、そのコツがタウロを天才であるような演出に一役買う事になったのであった。


 というかリバーシで無駄にシリアス過ぎない!?


 タウロはどっと疲れるのであった。

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