第33話 貴族に囲まれる

 ガーフィッシュとの面会の翌日。

 タウロと護衛のミーナを乗せた馬車は庶民が住む区画を通り過ぎ、一般貴族の住む区画をこれまた通り過ぎ、上級貴族の住む区画まで来ていた。


「景色が変わり過ぎて、ドン引きなんですが……」


 タウロは馬車の格子越しに外を眺めていたが、隣接する家がはるか向こうにある、広い敷地にお城の様な家が立ち並ぶ状況に、来た事をとても後悔し始めていた。


「安心して下さい、タウロ君。私もこのような区画に来るのは初めてでびっくりしています」


 一緒に乗っていた同じく緊張しているパウロが身も蓋も無い事を言った。


 パウロさん、それ、フォローどころかこっちも不安が増すだけだから!


 タウロは心の中でツッコむのだった。


 ミーナに視線を向けるといたって冷静なようだ、その姿にホッとする思いだ。


 タウロの視線に気づいたのか、


「私は護衛だから、常に冷静よ。まぁ、私がタウロの立場だったら、漏らしてたから、安心して」


 と、言ってきた。

 緊張は仕方が無いと言いたかったようだが、独特の言い回しに、


「漏らすって、フォローになってないよ!」


 タウロとパウロはこの冷静なミーナの冗談?に大笑いし、馬車内は一気に和むのであった。




「指定された貴族の邸宅はここですか?」


 馬車が止まった場所は、他の大きい貴族の家に比べてもひと際広く、大きく、事前に説明を受けていた王都の一貴族レベルをはるかに超える邸宅の前だった。


 タウロは馬車から降りるとその絢爛豪華な外観の建物に呆気にとられた。


「……ぼくにでもわかりますよ、これ、絶対、上級貴族の中でもさらに上のお家ですよね?」


 タウロは断言した。


 先に到着していたガーフィッシュ商会代表がサトゥー達を迎えると、


「サトゥー殿、当初予定してたエライーノ伯爵の邸宅から場所が変更になって、ここは、王国宰相バリエーラ公爵の邸宅だ」


「宰相!?」


「私も初めてくるから緊張して言うのを忘れていた、すまない」


 宰相と言えば、国王を除けば、1番の権力者のはずだ。

 ヤバい人に呼ばれた事をタウロはこの瞬間知ったのである。


 玄関に待機していた執事らしい男性が、


「みなさんお揃いでございますので、こちらへお越し下さい」


 と、ついて来るように促した。

 ガーフィッシュをはじめとした一同は導かれるまま、玄関をくぐり奥に誘導される。

 タウロの気配察知には誘導される先の広い部屋にかなりの数の気配が集中してるのがわかった。


「扉の前でお待ち下さい」


 そう、執事風の男性に言われたのでその場に立った。


 すると、


「ガーフィッシュ商会代表、マーダイ・ガーフィッシュ様。リバーシ指南役、タウロ・サトゥー様、そのおつきの方々が、お着きになりました!」


 扉の前にいた別の男性が大きな声で室内に伝えると、扉が開かれどよめきと共に室内から拍手が沸き、迎え入れられた。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<10人以上同時に上位鑑定される人気者>を確認。[鑑定阻害](極)を取得しました」


「え?」


 タウロはこのタイミングでの『世界の声』にびっくりしたが、それと同時に自分が鑑定されてる事実にもさらに驚き、取得した能力にはもっともっと驚く事になった。


「とりあえず、鑑定阻害を発動……」


 突然、値踏みされる事を拒んだタウロは、早速、新たな能力を使用した。


 鑑定阻害は成功した様で、ガーフィッシュとタウロを迎えた人達の中には怪訝そうな表情を浮かべる者達がいた。

 それは貴族であったり、その付き人や、護衛らしき者もいた。

 とりあえず、鑑定阻害は作動した様だ、値踏みは失敗である。


「ようこそ参られた、ガーフィッシュ商会代表。そして、少年よ。まだ子供とは聞いていたが、指南役がここまで若いとは思わなかったな」


 この館の主と思われる初老の男性が笑いかけながら、二人を迎える為に一歩出るとサッと人だかりにスペースが生まれた。


 この人がこの国の宰相!?


 その身に纏う尊厳なオーラに圧倒されながら、人々が囲む、奥の机に案内されるタウロであった。

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