第32話 商会代表

 王都到着当日は、リバーシの荷卸しを手伝い、パウロの案内で夕食をとった後、これもまた、パウロが予約してくれた宿で休む事にした。

 タウロ・サトゥーとしてはちゃんとした宿に泊まること自体が初めてだったのでドキドキだったが、意外に豪華なので驚いていた。


「(この世界の)宿は結構豪華だなぁ。みんなこんな感じなのかな」


「うん?これはタウロだけよ。私はあなたの護衛だから、隣の部屋を取って貰えたけど、他の冒険者達の泊まる宿は、もっと質素よ」


「そうなの!?」


「私がいつも泊まる宿は、ここの値段の5分の1」


「5倍なのここ!?」


「これから貴族にリバーシを指南するのだから、それなりの宿に泊まらせておかないと、箔がつかないんじゃないの?」


「そういうものなんだ……」


「うん、多分、そういうもの」


「緊張してきた……」


「今から緊張してたらこれから1か月、身がもたないわよ」


「そうだった、1か月だった……、みんなと一緒に5日後帰りたい……!」


「泣き言、言わないの」


「……はい」


 と、意気消沈のタウロだったが、お風呂がある事を知ると大いに喜び、鼻歌交じりに入浴。

 ご機嫌なまま就寝するのだった。




 翌日の朝。


「ミーナさんおはよう!」


 タウロは元気よく挨拶をする。


「……おはよう」


 それに対してミーナはすこぶるテンションが低い。


「朝、弱そうだね」


「……弱くはないの、機嫌が悪いだけよ」


「……それも含めて弱いって言うんだけどね……」


 不毛なやり取り後、一緒に朝食を宿の施設内の食堂で食べる事にした。




「……ミーナさん。ここの白パン固くない?」


「安らぎ亭が特別なの。これでも、この白パンは贅沢品よ」


 タウロは日頃、食事はギルド運営の『安らぎ亭』で済ませていた。

 そう、いつの間にかタウロの舌は自分で開発したメニューの為に贅沢な食事に慣れてしまっていたのだった。


「生姜焼きが食べたい……」


「……やめて、思い出すから」


 ミーナも『安らぎ亭』の常連なので舌は肥えていたのだった。



 満足とは言えないが、それなりに満腹になった二人は商会に顔を出す事にした。

 リバーシ指南は今日ではないが、前日は商会本部の関係者に挨拶出来ていなかったのでしようと思ったのだ。


 商会の建物は、ビルと言っていい煉瓦と木造による4階建てだった。

 改めてみると商会本部はやはり大きかった。

 場所は大通りからひとつ入ったところにあるが、これだけ大きいと他に見劣りしない。


「これでも、我がガーフィッシュ商会は、王都ではまだまだですよ。がははは」


 商会の代表である、ガーフィッシュ45歳である。

 口ひげを蓄え貫禄があり、豪快な人の印象を受けた。

 妻イサナ(35)、子供は3人。

 長男マーグ(18)、次男オツカ(13)、長女マーサ(8)である。


「パウロから早馬でリバーシが送られてきた時は、必ず売れるとすぐに確信しましたよ。それにうちの子供達もすっかりリバーシのファンでしてな。この王都でも必ず売れると思ったので先に伝手のある貴族達に売り込みました。案の定、大評判ですよ。」


「それは良かったです。師匠のモーブも喜んでいると思います」


 タウロの立場はあくまでも発明者モーブの弟子役である。

 ここでぼろを出すわけにはいかない。


「サトゥー殿はそのモーブ殿の弟子であると同時に、限定盤という芸術品を作る技術がおありだ。その歳で実に素晴らしい!」


「限定盤を作ってるのがぼくだという事は秘密でお願いします」


「秘密?…なるほど、確かに貴族が知れば、あなたを囲い込もうとする可能性がありますな。幸い製作者についてはまだ、明かしてません。聞かれてもいませんからな。サイーシの職人とだけ、説明してたので今後もそれで押し通しましょう」


 ガーフィッシュはタウロの言葉を察し、配慮してくれた。


「あ、口止め料に限定盤をひとつ、うちにもお願いします。がははは!」


 さすが商人、しっかりしている。

 だが、逆にそれは絶対口外しないという契約だとわかった。

 タウロはガーフィッシュという人物に好感を持つのであった。

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