第8話 買い物日和
ギルドに寝泊まりするようになってからは忙しい日々だった。
朝から職員の手伝いをし、それが終わると初級者用のお使いクエストを受注して日中クリアし、夕方はまた、ギルドの仕事を手伝う。
合間に掃除もしているから、暇がないくらいだった。
食事も毎日取れる様になり、やせ細った体も徐々に肉が付き体力も付いてきた気がする。
すぐに疲れていた肉体労働もそれなりにできる様になってきたのだ。
半月が過ぎる頃、クエストで貯めた生活費を差し引いたお金でモーブに借金を返す事ができた。
すると逆に倍になって返ってきた。
モーブ曰く
「稼がせて貰ったからお前の取り分だ」
らしい。
モーブさん、格好良すぎです。(感涙)
そして、今日は、ギルドの給料日だ。
正式な職員じゃないし昼間はクエストをやってるので他に比べると少ないそうだがそれでも貰えるものは嬉しいに決まってる。
「そのお金で身の回りの物揃えるといいんじゃない?」
受付嬢のネイが提案してくれた。
確かに身の回りの物はほとんどない。
服も湯あみの時に貰った物をずっと着ている。
浄化の魔法を覚えてからは、一日一回自分に使っているので一応清潔ではあるのだが、気分的に替えは欲しいところだ。
それにランクもG-からGへと上がっている。
ランクがG+からF-に上がるとクエストが、森での薬草採取や一角うさぎの討伐のクエスト等が出来る様になるから今のうちにナイフの1本くらいは欲しい。
「よし、今日は買い物に出かけよう!」
張り切るタウロであった。
買い物が楽しい。
タウロの素直な気持ちだった。
前世では買い物に楽しさを感じる事はなかったが、今はお金がある事のありがたみを強く感じて楽しい。
雑貨屋に寄って身の回りの物を購入後、ネイに教えて貰った古着屋で服を購入した。
質素なデザインだが元がボロボロの麻袋の様な服だった事を考えると贅沢なくらいだ。
あと、雨用のフードを買った。
雨に降られると困る事をクエスト中痛感したからだ。
これは多少値が張った。
魔物の皮が素材に使用されているからだ。
あと、ネイには大きめのサイズを買う様に言われていた。
子供はすぐ成長するからというのが理由だ。
買う際にはネイの紹介だと言うと少しまけて貰えた。
「ネイさん人脈広いな」
タウロは感心しつつ、
「あとは武器屋さんだ!」
と息巻いた。
今日のメインイベントである。
ここもネイの紹介で、ドワーフ族のお店だ。
この街では人族以外の亜人は珍しく獣人族は冒険者ギルド等で見かけるがドワーフは初めてだった。
どんなドワーフか想像しつつ、通りの角を一つ曲がると金属を打つ金槌の音が聞こえてきた。
見ると剣と金槌の看板が下げられたお店がある。
武器屋兼鍛冶屋の様だ。
ドアを開けるといろんな種類の剣や斧、槍、見た事も無い武器が並んでいる。
「店員さんは……、いない?」
店内には人はいない様だ。
金属を打つ音は奥の部屋から聞こえる。
「おー?客かー!?商品を見ながら少し待っててくれ」
奥から野太い声がした、お客が来た気配を感じたのだろうか?
……少しといいつつ結構待たされている。
なので奥の部屋を覗く事にした。
そこにいたのは、後姿だがファンタジーもののドワーフのイメージそのままだ。
横幅が広く脚は短く腕が太い、背は低そうだがタウロよりはあるだろう。
「うん?」
ドワーフが手を止めて振り向いた。
「ああ、そうだった、客だったな」
ドワーフが立ち上がった。
タウロを見て自分より小さい事を確認すると
「もしかして子供か?」
と、言った。
どうも、人間はみんな一緒に見えるらしい。
年齢がわからないので身長で判断している様だった。
「親の使いか、わっぱ」
「いいえ、違います。それより、焼き入れはしないんですか?」
鉄は熱い内に打って最後は水に入れて焼き入れをする、TVなどで見慣れた光景だ、その後、焼き戻しもするがドワーフが放置したのが気になったのだ。
「焼き入れ?なんだそれは」
タウロも詳しくないが簡単に説明した。
「……ふむ。それは初耳だが言われてみれば理屈に合ってる気がする……だが、それだと鉄が曲がるだろう?いや、調節出来ない事もないか……」
試したくなったのだろう、火炉をチラチラ見ながら
「で、用件はなんだ?」
と聞いてきた。
護身用も兼ねたナイフが欲しいと言うと
「それならあそこの棚にわっぱ向けの小さいのが並んでるから選べ、1本くれてやる。満足いかない時はまた来い」
言うや否や作業を始め出した。
もう、我慢できなくなったらしい。
何はともあれタダでナイフが入手出来る事になった。
「……じゃあ、お言葉に甘えて頂いて行きますね」
帰り際に声をかけたが、「……ああ」と短く答えただけで確認はされなかった。
今日最大のメインイベントは淡泊なものだった……。
「……想像してたのと違う」
得したのにがっかりしたタウロであった。
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