第7話 ギルドのお仕事

 ギルド内の一室。

 タウロにあてがわれた部屋だ。

 簡易的な物とはいえ、異世界で初めてのベッドに涙ながらに歓喜しつつも今日1日の出来事を振り返っていた。

 朝から路地裏で死にかけた絶望のどん底から今は屋根のある部屋でベッドの上にいるのだ。

 この落差には感慨深いものがある。


「……明日からも頑張ろう……」


 8歳の子供じゃなくとも大変な1日だった。

 どっと疲れが押し寄せたタウロはすぐ寝息を立てて夢の中に落ちていった。




 こんなに安心して寝たのはいつぶりだろうか。

 快眠の余韻に浸りながら思うタウロだった。


「って、あ、もう昼が近いじゃないか!」


 思わず昼近くまで寝てしまっていた事にやっと気づいたタウロは慌てて起きると受付に向かった。




「ネイさんすみません、寝坊しました!」


 昨日支部長にも冒険者として節度ある行動をと言われたばかりだ。

 いきなり遅刻は、駄目だ。


「タウロ君おはよう。いいのよ、昨日の今日だからわざと起こさなかっただけだから」


 笑顔でネイが答えた。


 お昼からのタウロは忙しかった。

 冒険者ギルドは地下1階、建物が2階の作りで中庭もあり、サイーシの街の大通りに面しながらひと際広い。

 掃除だけでもかなりの量だった。

 右往左往しながら大掃除をしていたタウロは夕方近く受付の側を通りかかると冒険者で溢れかえっていた。

 クエストの報告の為に冒険者が殺到しているのだ。

 ギルドの日常の光景らしく職員は慌てる事なくテキパキと動いている。

 手伝った方が良いかもと思ったタウロは近くの職員に


「手伝う事ありますか?」


 と、聞くと


「うーん……、手伝って貰いたいのは山々だけど……、君、流石に文字読めないでしょ?」


 という返事がきた。


「いえ、読み書きは一通りできます。計算もできるので書類整理くらいならできるかもしれないです」


「「「「え?」」」」


 受け付け周辺の冒険者、そして、忙しく動いていた職員全員がピタリと止まり固まった。


 この世界はお世辞にも、識字率が高いとは言えない。

 教育も行き届いていない。

 職員の中にも読み書きが十分ではない者もいるくらいだ。

 冒険者に至っては言わずもがなである。

 なのでまだ、8歳の、それも昨日まで浮浪者だった子供が読み書きに計算が出来る事が異常なのだ。


「え?」


 タウロはさっきまでの騒音が嘘のように止まって全員がこちらを見ているのに気づいた。

 受付をしていたネイさんが、


「読み書きに計算もできるのタウロ君!?」


 と驚いた表情で聞いてきた。


「……はい」


 前世の記憶が戻ると同時に読み書きと計算は出来る様になっていたのだ。

 読み書きに関しては前世で出来ていた事なので常識的な「通常の能力」として当然の様に上書きされていた。

 もしかしたら、『前世の記憶』の能力の一部という事になるのかもしれない。


「おいおい、マジかよ……」


「俺なんて自分の名前以外読み書きできないんだが……」


「お前、名前かけるのかよ!俺はかけないぞ!」


「計算なら10までは出来るぞ!」


「それ、両手を使った足し算引き算だろ」


 冒険者達にそこそこのダメージを与えたタウロであった。


「じゃあ、手伝って!」


 ネイさんに簡単な説明を受けるとテキパキとタウロは仕事をこなしていった。




「タウロ君ありがとう!お陰で仕事がはかどって助かったわ!」


 ネイさんが職員を代表してお礼を言った。

 他の職員からも助かった、ありがとう、という言葉が飛ぶ。


「お役に立て良かったです」


 笑顔で答えるタウロであった。


「それにしても……」


 ネイのタウロに対する疑問も深まった。

 だが、それを解決するワードもあった。

 それは文字化けスキルだ。

 どんなものかわからない為、文字化けスキルの恩恵と思えば納得するしかないのだ。

 タウロ自身、文字化けスキルがどんな能力なのかわからないが今はわからないからこそ説明が簡単で良かった。

 それに取得した能力とは言え、前世の記憶があるとは言えない。


「タウロ君には驚かされるわね」


 ネイは感心しきりだった。


「あ!今日はクエストクリアしてないから収入『0』だ!」


 自分で気づいてショックを受けるタウロであった。

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