第5話 続・冒険者ギルド

「ランクはS+まであります。Bランク以上になると一流と言われています。タウロ君も一流を目指して下さい」


 その後は冒険者ギルドのルールの説明が始まった。

 基本的なものが一通りだった。

 注目点は、犯罪を犯すとタグに記録されることだ。

 つまり、犯罪を犯せば一発でギルドから追放、もちろん警備隊へは罪の大小に関わらず突き出される事になる。

 幸いタウロは盗みは未遂で終わったので記録されていない様だ。


「粗暴な冒険者さんは多いですがほとんどの人がちゃんとルールを守ってクエストをこなしているので安心して下さい」


 意外と健全な人達なんだな、と施設内の冒険者達を見回して感心するタウロであった。




「早速、クエストをやりたいのですが……」


 今はとにかく稼いで食事にありつきたい。


「まぁ、落ち着いて。もうお昼だから食事にしましょう。タウロ君が冒険者になったお祝いに私が奢るから」


「いいんですか!?」


 もう、数日ご飯を食べていない。

 この優しい申し出に断るという選択肢はなかった。




 久しぶりの食事という事でネイにスープからゆっくり食べるようにと注意された。

 パンもスープに浸して柔らかくしてから食べる。


「タウロ君、ずっと思ってたのだけど君、元は良いところの子なのかな?礼儀正しいし、食事のマナーもしっかりしてるし……。あ、答えられない事は答えなくていいからね?」


 まだ8歳で孤児でやせ細ってボロボロなのにそれとは対照的に礼儀正しい、よほどの事情があると思ったらしかった。


「いえ、実家は貧乏なただの農家です。母は僕を産んですぐに亡くなったそうです。6歳になって役立たずと判断されて厄災の森に捨てられる寸前だったので飛び出してきました」


「口減らしって事?」


「そんなところです。元々、普段から殴られたり蹴られたりしてたので未練はないです」


 これは事実だ。

 前世の記憶を取り戻す前のタウロは悲惨な状況だった。

 わずか6歳で家を飛び出したのは厄災の森に捨てられたら死ぬのがわかっていたからだ。

 唯一の宛は村の大人から聞いた、このサイーシの街の存在。

 村から比較的に近いとはいえ、徒歩で数日の距離がある。6歳の子供には大冒険だった。

 不安で泣き出したくなるのを我慢しながら昼は歩き続け、夜は息を潜めてひっそりと物音に怯えながら夜明けを待った。

 昼まで少し寝るとまた歩き続ける。

 そうして数日を踏破してサイーシの街に到着したのだ。

 だが到着したサイーシの街は、弱者に優しくは無かった。

 自分と同じような境遇の子供は沢山いて残飯を漁るにも縄張りがあり競争だった。

 新参者のよそ者でわずか6歳の子供にはおこぼれも厳しい世界。

 そんな中の2年間だ、タウロはギリギリの線を歩んでいた。

 前世の記憶を偶然とはいえ取り戻せたのは本当に幸いだった。

 ろくな教育も受けてない子供に生きる為の打開策はそう出せない。

 冒険者ギルドに行く勇気もなかっただろう。

 何とか命を繋いだ形だった。

 そして、この食事のおかげでまた、数日は生きていける。

 タウロ・サトゥーの目はまだ死んでいなかった。




 ギルドに戻ったタウロは早速クエストを受注した。

 昼過ぎに残ってるクエストは大したものは無かった。

 なので選んだのは、初級者や、ルール違反の冒険者がやらされる、通称「お使いクエスト」のひとつ、ドブさらいだ。

 お金が貰えるなら、汚くてもきつくても大歓迎だ。

 これで夜も食事が食べられるかもしれない。

 ただ、今夜どこで寝るかが心配の種だった。

 お金を稼いでも年長者の浮浪者達に狙われたら全額取られてしまうのは目に見えている。

 まずは沢山食べて体を戻し強くならないといけない。

 冒険者ギルドでは訓練の類も行っていて専任の武芸教官が教えてくれるらしい。

 冒険者の生存率を上げる為の一環だという。

 これは参加しないといけない!

 握る拳にも力が入るというものだ。


「ネイさん、ドブさらいのクエスト終わりました」


 受付にタウロが現れると


「きたねぇぞガキ。裏に回れ裏に!」


 冒険者の1人が鼻をしかめて言ってきた。


 するとネイが、


「タウロ君、裏に井戸があるから水浴びしてきてね。替えの服は大きいかもだけど出しておくからそれを着てね」


と、声を掛けてくれた。


「わかりました。ありがとうございます」


 お礼を言うとそそくさと裏へ走っていった。



 裏の井戸には先約がいた。

 その先約の男がヘドロでも被ったのか臭いがきつい。

 タウロとどっこいどっこいだ。


「小僧、お前臭いな!」


 ガーン!


 いや、そっちもだよ!


 と、内心でツッコむタウロであった。

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