第4話 冒険者ギルド

「登録料ですか?……どのくらいかかりますか?」


 無一文の自分にはほぼ詰んでる状況だが、一応聞いてみた。

 受付嬢のお姉さんは申し訳なさそうに言った。


「銀貨十枚なの……」


 詰んだー!

 タウロの心の中は大号泣状態だった。

 銀貨十枚は前世の額だと1万円くらいだ。

 タウロが銀貨十枚も持っていたら路地裏で大人の浮浪者達に殴られて奪われている。

 その日食べるのにも事欠くのに銀貨十枚は無理な額だ。

 というかこの街に来ての2年間、銅貨以外拝んだことも無い。

 借金してでも登録したいところだが、今のタウロの立場はただでさえ微妙だ。

 村から逃げてきたので身分を保障するものが無い。

 だから信用が無い。


「よし、俺が出してやる」


 不意にタウロの背後から声が上がった、ベテラン冒険者?モーブだ。


「おいおい、モーブ。冒険者証明書のタグを手に入れたら逃げるぞそのガキ」


 周囲の冒険者達が茶々を入れてくる。


「だからだよ!」


 モーブが言い返した。


「?」


 周囲の冒険者達がキョトンとしている。


「よし、賭けを始めるぞ!このガキが俺が貸す銀貨十枚をちゃんと働いて返すかどうかだ!」


「ぎゃはは!そういう事かよ!でも、それじゃ賭けにならねぇーぞ!」


「そうだそうだ!ガキに賭ける奴がいないだろ!」


「それに、今にも死にそうじゃねぇか!」


 冒険者達の容赦ない言葉が飛び交う。


「俺がこのガキに賭ける!」


 モーブが不敵な笑みを浮かべた。


「おお!こりゃあ、モーブが貯め込んでる金を吐き出させるチャンスだぜ!」


「よし!その賭け、乗ったぜ!逃げるに銀貨十五枚だ!」


「俺は返す前にくたばるに二十枚だ!」


「俺は、トンズラするに銀貨五枚だ!」


 続々と冒険者達がタウロの負けに賭ける中、受付嬢のお姉さんがタウロに耳打ちする。


「良かったわね、あのモーブさんは、元々孤児で冒険者として身を立てるまで苦労したそうよ。君を見て思い出したのかもね」


 名前はモブっぽいのに凄く良い人だよ、モーブさん!

 感動に心の中で号泣するタウロであった。




「それじゃあ、登録手続きをします。私の名前はネイですよろしくね。君の名は?タウロ君ね」


 受付嬢のネイが後ろの棚から水晶球が埋め込まれた箱の魔術道具を取り出してきた。


「これに触れて下さい」


 タウロは素直に従う。

 洗礼の儀で使用した物に似ている気がする。

 すると水晶球が光り、箱に下の部分から紙が出てきた。


「タウロ・サトゥー君8歳ね。スキルは……」


 受付嬢のネイさんは驚いた顔をした。


「文字化けスキルなのね。それも見たところ1つみたい。通常、スキルは何かしら名前があってその名前をヒントにみんな努力するの」


 ネイさんの説明は続く。


「例えば『槍使い』と『裁縫』だったら槍に関する武術と服の裁縫に関する努力をし続ける事でステータスの向上やその過程で条件を満たして能力の取得が出来ます。能力取得は『世界の声』が教えてくれます」


「『世界の声』ですか?」


「はい。『世界の声』は天上の神の声とも言われていて誰しも能力を取得すると教えてくれます」


「そうなんですね。(死にかけた時に前世の記憶が蘇った時、聞こえたアレかな?)」


「タウロ君は文字化けスキルなので、どの分野を努力するべきかわからないだろうけど、色々やっていけば何かしらわかるはずよ。頑張りましょう!」


「はい!ありがとうございます!」


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 受付嬢のネイは魔道具から出てきた紙を別の大きな魔道具の箱に持って行った。

 一見するとコピー機に似てる気がする……。

 箱と板の間に紙を挟むと一瞬光った。

 本当にコピー機みたいだ……。

 下の方から何か出てきた。

 それをネイさんが持ってきた。


「これが君の身分を証明し冒険者ギルドの一員である証拠となるタグです」


 タウロに小さい木の板が差し出された。


「ありがとうございます!」


「はい。紐を通して首に下げると良いわよ」


 笑顔で答えるネイ。


「ではこの冒険者ギルドについて説明をするわね。冒険者ギルドはランク制です。初心者はG-ランクから始めます」


「G-(ジーマイナス)?」


「はい、G-、G、G+そして、F-に昇格するという具合です」


 聞けば聞くほど、昇格までには時間がかかりそうな制度だった。

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