第3話 早速、死ぬ寸前

 その街の文化レベルは中世といったところか。


 サイーシの街の端に位置する犯罪者達が作った掃き溜めのさらに奥まった裏通り。

 痩せこけたボロボロの子供がそこで頭から血を流し死にかけていた。

 生きる為に盗みを働いたが捕まり、目いっぱい殴られ意識を失い倒れているのだ。


 そこに近づく大人が1人いた。


 子供の様子を見ると、


「なんだ、金目の物ひとつありゃしねぇ!」


 つばを吐くと、倒れた子供を蹴って離れていく。

 ここでは日常茶飯事の出来事のようだ。


 蹴られた事で意識が戻ったのか子供の指がかすかに動いた。



 脳裏で機械的な音声が聞こえる。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<魂の死に戻り>を確認。[前世の記憶]を取得しました」


 頭に激痛を感じながら、意識が徐々に戻ってくる。


 身体に石畳の冷たさを感じながら、記憶が鮮明になる。

 ぼくの名はタウロ・サトゥー8歳だ。

 前世では佐藤太郎21歳。

 そして、今、肉体より先に魂が死にかけて戻ってきた!


「危なっ!」


 倒れたまま、佐藤太郎こと、タウロ・サトゥーは呟いた。

 このタウロは、6歳の時に受ける洗礼の儀で、能力を開花した事がないクズスキルの「文字化け」を持ってる事が発覚。

 元々飲んだくれの父親に洗礼の儀式でスキルを確認後、魔物が跋扈し危険な災厄の森に捨てるかどうか決めると言われていたので、住んでる村から数日の距離にある比較的に大きいサイーシの街まで逃げてきたのだ。

 それからの2年間は、森の木の実を採取したり残飯を漁ったりして食いつなぐ日々。

 数日に1度食べられればいいというギリギリの生活を送ってたのが、さっき空腹のあまり店主が怖い事で有名なお店の品に手を出し殺されかけたのだ。

 運よく死に戻りしたが肉体の方も長くは持たない事は前世の記憶を取り戻した佐藤太郎にもよくわかった。


「……やばい、これ詰む寸前だ……」


 起き上がるのさえ辛いくらい弱った体に鞭を打ち立ち上がる。


「折角記憶が戻ってきたんだ、死ねないぞ……」


 死にかけたタウロの目は輝き、生きようとしていた。




「……これからどうしようか……」


 佐藤太郎ことタウロ・サトゥー8歳は頭をフル回転させていた。

 肉体がもう、あとわずかの命だと悲鳴を上げている。

 どうにかして食料を入手して食べないと危険だ。

 かといって盗みをしてまた捕まってタコ殴りに遭えば今度こそ死ぬだろう。

 元手もないし、まだ子供で非力だし、同情する大人はいない。


「となると……、異世界と言えばやはり……」


 タウロは街の大通りに歩みを進めた。




「……ここが冒険者ギルドか……」


 本当なら感動モノなのだが今は生きる事に必死な状況だ。

 ガリガリでボロボロな体を引きずって扉を開けた。

 入った瞬間、中にいる冒険者らしい者達の視線が飛んでくる。


「おいおい……」


 という言葉を漏らす者もいる。


「なんだガキ、ここは冒険者ギルドだぞ!出てけ!」


 ベテランの冒険者っぽい身なりの男が怒鳴りつけてきた。

 タウロはそれを無視し受付を目指した。

 とにかく今は受付で登録させて貰い、辛い仕事でも何でもやって稼がないと死んでしまう。

 今のタウロにはそれしか道が無いのだ。


「ガキ、無視すんな」


 ベテラン冒険者?がタウロの首根っこを掴んで持ち上げた。


 すると、受付の女性が、


「ちょっと、モーブさん、暴力は駄目よ!」


 と言いながら慌てて手を振る。


 ベテラン冒険者?モーブはタウロの首根っこを掴んだまま受付まで運ぶとゆっくり下した。


 受付嬢はタウロに小声で、


「他の冒険者に絡まれない様にモーブさんが先にわざと声をかけたのよ」


 と、囁いてくれた。


 どうやら掴んだのも受付まで歩けるか心配だったので受付嬢が声をかけてくる事まで計算して持ち上げた様だ。


「……!(こっちの世界で初めて良い人に出会ったよ!)」


 タウロは内心感動しながら、


「ありがとうおじさん」


 と、お礼を言うと、


「うるせいこのガキ、勘違いすんな!」


 と、怒鳴ると離れていった。


 その後ろ姿にお辞儀をすると受付嬢に向き直り、


「登録したいのでお願いします」


 と再度お辞儀をした。


「……言いづらいのだけど登録には費用が掛かるわよ?」


 ガーン!


 そうなの!?

 聞いてないよ!いや、今聞いたけど!


 ……あれ?これどこかでもあった気が……。

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