第11話 あなたに・・・

私は式場を飛び出し、ドレス姿で街を走る。


いるかも分からない彼の元へ ―――




「スゲー」


「マジかよ……」


「ドラマの撮影?」



色々な言葉が飛び交う中、視線が集中して注目されているのが分かった。


だけど私は関係ない。


とにかく彼に逢いたい一心で無我夢中で走っていたのだから ――――




そしてマンションの前に来るものの飛龍の姿はなかった。



しばらくはマンションの建物の前にいたけど突然の雨に見舞われた。




「雨降るって言ってなかった気がするんだけど……罰が当たったのかな……?飛龍にも逢えなかったし……」



私は来た道を帰る事にした。




「所詮……私達の運命はこういうものかな?」


「やっぱり身分が違うからすれ違うのかな?」





グイッと私の腕を誰かが掴みキスされた。



≪えっ…?誰?≫



私の視界に赤い髪がチラリと見えた。



≪飛龍?≫




そして唇が離れた。



ドキン



≪飛龍だ……≫



私の両頬を優しく包み込むように触れる。




「飛龍っ!」



私は飛龍に抱きついた。



「お前……その格好……」



私は体を離す。




俺は彼女の表情に目を奪われた。



何処か切なさを感じさせるのと安心した様子で俺を見つめる視線は、あどけない少女の顔と女性としての顔が交差していた。




「…飛…龍…?」



俺は彼女を抱きしめた。



「車からお前を見掛けた。まさかと思ったが…」

「飛龍に……逢えて良かった……逢いたかった」

「奈月……」

「私…飛龍が……」



キスをされた。


唇が離れると、すぐにまたキスされた。





● 式場


「広司っ!あなたは何をしたか分かっているんですか?結婚式に結婚相手を自ら手放すなんてどうかしていますっ!今伊家の恥です!」


「お母様!俺はずっと我慢して来ました。俺も何もかも突然過ぎてトントン拍子に決まるのに不安があったんです!本当にこのままで良いのだろうか?と……」



「………………」



「俺の人生です!このままでは二人とも幸せになりません!俺も、もう少しの間時間が欲しい。自分の人生を見つめ直すタイミングだと思います。しばらくは放っておいてくれませんか?御勝手な言い分をお許し下さい!結城家にも御迷惑をお掛けしてすみません。奈月さんを責めないであげて下さい。お願いします」



「いいえ、こちらこそ今伊家にも広司さんにも御迷惑お掛けしてすみません…」

「では失礼致します」



去り始める広司さんは足を止め背を向けた状態で




「後……もう1つ話さないといけない事があります」



「何ですの?」


「……俺……奈月さんと天秤かけてお付き合いしている人がいます」


「まあっ!広司っ!あなたって人は…」


「彼女とは体の関係もある深い仲です!それだけじゃない!俺はっ!! 奈月さんと一緒に自殺を図ろうとした男です!」



「えっ!?」


「まあっ!広司っ!何て事を……」



「その時、偶然にも奈月さんの想い人が助けてくれた。生命を無駄にするな! と……今、思えば……本当に救われました……こんな俺をと思いました……俺は奈月さんを幸せに出来ませんよ……彼女を苦しめるばかりです。失礼します」




―――・―――・―――・


唇が離れる。



「本当、お前は最後の最後まで、お嬢様とは思わせない大胆なお嬢様だな。衣装(ウェディングドレス)のまま街を歩くなんてどうかしてる」


「飛龍…正しく言うと歩くじゃなくて会場を飛び出して来たお嬢様ですよ。私…飛龍のマンションの帰りなんですから」


「どちらにしろ街中で大胆な行動を取ったお嬢様だろう?全く!」


「だって無我夢中で……」


「……奈月……お前は……俺で良いのか?」


「えっ?」


「式を取り止めたとなればお前は俺を選んだ事になるんだぞ」


「それは……」


「お前の全部(すべて)をもらうが良いのか?」


「だ、だけど……元々、そう言って……あっ!でも彼女……」


「彼女?とっくに別れている。お前が正式に付き合うと報告を受けた時は既にいなかった。でないとお前を連れ出したりしない。まあ…あの事はこのまま別れたくないと思っていたのもあるが……」



「飛龍…」


「とにかく帰るぞ!ここにずっといるわけにはいかない」


「帰る?」


「俺の所だ!それとも逃げ出した式場にでも戻る気か?」


「いや、辞めとく…まあ…飛龍と式を挙げても良いけど…」


「断る!今更戻って何故式を挙げなければならないんだ?俺と結婚しますとでも結婚宣言でもする気か?」


「うん!」


「馬鹿じゃないのか?」

「大胆なお嬢様だから。大体、女の子の最大イベントなんだよ」

「そこから逃げ出したのは誰だ?」

「私」


「俺も逃げ出されそうだから辞めておく!」

「私は飛龍だったら逃げないよ!」




キスされた。



「俺もお前を逃がさない!本当に愛し合っているならな」




私達はマンションに帰る事にした。













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