第10話 二人の想い~こぼれ落ちる涙に隠された想い~

「奈月……本当に良いの?」と、お母様。


「だって望んでいた事なんでしょう?」

「でも……」


「時間(とき)は止まったままじゃないよ。日にちだって時間だって同じように進んでる。1日1分1秒、時刻(とき)は刻まれて動いているんだから」


「奈月……じゃあ…そのまま進めていって良いのね?」


「うん…良いよ。大丈夫だから」






ある日の事だ。

私の知らない所で二人は会っていた。




「あの…月邑 飛龍さんですよね?」


「お前は…」


「以前は助けて頂いてありがとうございます。お陰で彼女・奈月さんと正式にお付き合いをし、トントン拍子に進んでいます」


「わざわざ幸せの報告か?」


「それも含みますが、あなたの気持ちを確認しに伺いました。あなたはこのまま本当に良いんですか?」



「えっ?」


「このまま奈月さんをあなたは手放して良いんですか?」


「言っておくが例え相思相愛だとしても俺達は結ばれない運命なんだ。奈月の両親が良い顔しない」


「つまり、それは……奈月さんの事をあなたは愛していらっしゃるという事で良いんですね」



「……だとしたら?どうなんだ?」


「来月、式を挙げます。あなたが来る来ないは、あなたの勝手ですが、彼女の心の中には、まだあなたが存在しています」



「………………」



「あなたは……以前、彼女を殺そうとしていた俺に愛する女(ひと)を任せて良いんですか?」


「お前は……俺に何を?」


「いいえ……彼女は……幸せになれるのかな?と思っただけです。失礼します」






そして結婚式当日 ――――




式は家族のみで行う事にした。




「奈月、綺麗よ」と、お母様。


「奈月、似合ってるよ」と、広司さん。


「ありがとう」

「じゃあ、私は先に式場に行ってるわね」

「うん…」



出て行く母親。




「奈月、君は…本当に良いんだね」

「えっ?やだ、急にどうしたの?」

「彼の事はこのままで良いの?」

「広司さんっ!今から結婚を控えてる直前に辞めてっ!」

「無理してほしくないんだよ!」



「………………」



「君が幸せになる相手は俺じゃない!二人は例え体の関係が、ある、ない、にしても心の中にお互い存在している。違う?」


「…広司さん…彼とは住む世界が違い過ぎるの。だから結ばれない運命だから……これ以上私の心を……」




キスされた。



「……そうか……分かった……それじゃ…後で」





出て行く別れ際 ――――




「君は…とても哀しい顔してるよ……自分に正直になった方が良い……」



「………………」





そして式が始まる。




私は飛龍との出逢いが脳裏に過る。




初めてトキメいた瞬間


鮮やかな赤い髪色


ファーストキスを奪った彼



何処かクールで


ムカつくけど


でも


違う意味で惹かれる




だけど


その時は


彼への想いに気付いてなかった



本当にこのままで良いの?


彼への想い


封印して幸せになれるの?





私は涙がこぼれ落ちた。




「奈月……?」


「……私……」


「その涙は…君の本当の心の涙だね」



キスをする広司さん。



「さよならのキス」



私達にしか分からない声で広司さんは言った。


私を振り返らせると出入り口に方向転換させた。




「行きなよ。本当の愛を掴んでおいで。君の相手は俺じゃない。俺とじゃ君は幸せになれない」


「広司さん」


「お母様、本当の愛とは?本当の幸せとは?本当に心から愛している人と結ばれるのが幸せでしょう?違いますか?奈月さんの相手は俺じゃない。俺は彼女を幸せに出来ない。さあ、奈月行って。愛する彼の元へ」



「皆様……ごめんなさい……何もかも土壇場で御迷惑をお掛けして本当にごめんなさい……」




私は深々と頭を下げた。



そう言うと私はドレス姿の状態で式場を飛び出した。



















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