第7話 隣の女性(ひと)

「奈月、あなた、今、気になる方はいらっしゃるの?」


「えっ?」


「広司さんとゆっくりでも、お付き合いしたらどうかしら?婚約とか許嫁だとか、そういうの抜きにしてお友達からどう?」


「それは……」


「あの時は急ぎ過ぎたと思うし、ゆっくりなら問題ないんじゃなくて?」





私は迷いがあった


悪くはない話だと思うけど


正直


飛龍が心にいるから


何処か複雑だった





ある日の事、私は一人で街に出ていた。



「奈月?」



私の名前を呼ぶ声に振り向く私。




ドキン


まさか、こんな街中で再会するとは思わなかった




「飛龍」



ズキン


隣には飛龍の腕に自分の腕を絡め、腕を組んでいる女の人の姿があった。




「久しぶりぶりだな?」

「そ、そうだね」

「ねぇ~、だぁ~れぇ~?」



甘えたように言う女の人。



「前に少し話をしていた女性だ」

「あー、へぇー、可愛い子。以前飛龍がお世話になったみたいで、ありがとうございます」



≪お似合いだ≫




どういう風に私の事を話したのだろう?


私達は付き合っていたわけではない


友達?


良くしてくれたお嬢様?


そんな事くらいしか思い浮かばない





「いいえ…私こそ良くしてもらい凄く感謝しています」


「飛龍は優しいから。ねっ? あっ! 飛龍、私寄りたい所あるんだけど良いかな?」


「ああ」



私達はすれ違う。



ドキン



すれ違う別れ際。



『またな! 元気でな!』



囁くように言うと私の頭をポンとした。






ズルいよ………


優しくしないでよ………


別れ際に言った一言には


どんな意味が込められているの?


私達は


このままサヨナラなの?



ねえ……



飛龍………






「ねえ、飛龍……あの子、お嬢様なんでしょう?」


「ああ」

「私達と住む世界が違うよね~?」

「…まぁな」





その日の夜 ―――



「奈月、広司さんとの事、考えてくれたかしら?」


「えっ?」


「ゆっくりで良いのよ。どう?」

「……うん……ゆっくり……お付き合いしてみようかな?」

「じゃあ、お伝えしておきますわね」

「うん……」




私は飛龍を忘れようと違う道を歩こうとした。


それに将来を考えた上で、両親はまた違う相手を紹介する。


もしくは、広司さんとの事を勧めようとして行くだろう?


私の人生は結局、親の選ぶ道しかないんだと……



飛龍は新しい女の人と既に歩み始めていた。


私達はもうお互いを必要としない。


別々の道を歩んで行くんだよね……?





「飛龍、私、飛龍と結婚して家庭築きたいなぁ~」


「えっ?」


「早く結婚して子供産んでっていつも思うんだ」


「麻沙希(まさき)」

「ねえ、飛龍……私の事好き?」

「…ああ」


「嘘っ!」

「えっ?麻沙希…?」


「飛龍は、私の事好きじゃないよ!飛龍は、お嬢様のあの子が、まだ心残りなんだよ!」



「………………」



「ごめん……帰る……」

「麻沙希」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る