第6話 傍に・・・
「飛龍っ!どうしたの!?」
頭を押さえている飛龍の姿。
「大丈夫!?」
「……ああ…大丈夫だ……」
「飛龍…指輪見付かってから考え過ぎなんじゃない?」
「……考えずに…いられないんだ…」
「……飛龍……」
「俺は結婚しようとしている相手がいたのか? 既に婚約していたのだろうか? 色々と頭の中を駆け巡る」
私は飛龍を抱きしめた。
「ゆっくりで良いから…焦らなくて良いから…無理に思い出そうとするのは良くないよ……焦る気持ちはあるかもしれないけど…飛龍の居場所はきちんとあるから…」
抱きしめた体を離し、私は飛龍の両頬を優しく包み込むように触れる。
「奈月……」
「ねっ!」
グイッと飛龍は抱き寄せ抱きしめた。
ドキン
私に何が出来る?
記憶が戻ったら離れ離れになる
分かっているけど
今
私がここにいる事で
支えてあげなければ
彼の心は
硝子のように脆いから ―――
―――― ある日の事だった ――――
学校が終わり飛龍はマンションの建物の前迄、私を送ると車からおろし用事ですぐに出掛けた。
マンションの中に入って行こうとした時だ。
「……あの……」
私を呼び止める人影があった。
振り返ると女の人がいた。
≪……あっ……この人……≫
「はい?」
「少し、お時間良いですか?」
「はい」
私は女の人に連れられ、近くの公園に移動した。
≪公園……近くにあったんだ……≫
≪やっぱり飛龍の事……知ってる人なんだ≫
「ごめんなさい……突然呼び止めてしまって……」
「いいえ」
「あなたは……今…彼とお付き合いされているの?」
「彼?あの……もしかして…飛龍の事…ですか?」
「ええ」
「いいえ、お付き合いはしていません……協力…しているだけです」
「協力?」
「はい……彼……記憶喪失で……」
「えっ?記憶喪失?」
「はい……私に何が出来るか分からないですけど……あなたこそ…どうして私に? 直接、飛龍に会って下されば……飛龍の大切な方なんですよね?」
「彼には合わせる顔がないんです」
「えっ!?」
「確かに私達は付き合っていたわ。彼を愛していた。……だけど……私は……彼以外に好きな男性(ひと)がいて……既にお腹には相手の子供がいたの……」
「えっ!?その事……飛龍は知っているんですか?」
「その後、別れを告げたから」
「……じゃあ……あの指輪……」
「指輪…?」
「多分、あなたに渡すはずだった指輪って事?」
「指輪なら彼に結婚して欲しいと言われて返した指輪だと思うわ」
「………………」
「指輪は処分するように伝えて。あなたが……これからは彼を支えてあげて」
「……無理だよ……」
「えっ?」
「私と飛龍は……パズルが全部揃ったら別れるんです。パズルが揃う迄の期間限定の恋人なんですよ……」
「…そう…だったの……」
「…私は……財閥のお嬢様なんです……」
「財閥!?」
「はい……私……結婚控えていたんです……だけど……自分の人生を変えたくて記憶喪失である彼・飛龍に無理を言ってマンションに転がりこんだ馬鹿なお嬢様なんです」
「……そう……」
「傍にいたくても…飛龍と私は結ばれないから……飛龍は身分が違い過ぎると言って突き放しますから…それが……私達の現実なんです……」
「チャンスはまだあるんじゃないかしら?」
「えっ?」
「私が言う権利は一切ないけど……あなたの想いを大切にしてみたら?それじゃ……ごめんなさいね。お話が出来て良かったわ」
そう言うと女の人は去って行った。
「………………」
「私の想いなんて……飛龍は突き放すんだから……」
空からは雨が降り出す中、公園のベンチに座っていた。
飛龍は真実を知ったらどうするんだろう?
――― だけど ―――
私達は別の道を歩むんだよね……
だって飛龍と私は住む世界が違うから……
パズルが全部揃ったら
私達の関係は
終止符 ― ピリオド ―
なんだから…………
「奈月っ!」
「……飛龍…」
「何しているんだ?部屋にいないから心配……」
私は飛龍の胸の中に飛び込んだ。
「奈月?」
「ごめん……」
離れる私。
「二人きりの時は駄目だったね……彼女が……来たよ……」
「彼女?あずさの事か?」
ズキン
飛龍の口から名前を聞き私の胸が痛む。
「……記憶……戻ったんだね…じゃあ……パズルが繋がったから終止符(ピリオド)打たなきゃいけないね」
「そうだな」
「じゃあ今日中にでも荷物纏めて出て行くね」
「別に今日中に出て行かなくても良いだろう?」
「ううん……出て行く……だってパズルが揃ったらいる理由ないでしょう?さあ、戻ろう!帰る仕度……」
背後から抱きしめられた。
ドキン
「飛龍……?どうしたの?二人きりの時はしないって……」
「パズルが揃ったから関係ない」
「えっ?」
「一人の男と女だ」
ドキン
「飛龍……」
「今日1日だけ俺の傍にいてほしい!」
ゆっくり振り返らせるとキスをする飛龍。
「俺の最後の我が儘だと思って聞いて欲しい」
私は飛龍を抱きしめた。
私達は部屋に戻り、私は一先ず親に連絡を入れておいた。
二人の想いが1つなら
離れなくて済む
だけど私達には
そんな気持ちはなかった
例え私があっても
飛龍にないなら
私達の関係は
何も変わらない
帰る仕度をし、御風呂に入りあがると脱衣場でボンヤリしていた。
時間は刻一刻過ぎて行く度に
私の心は寂しさに溢れ
涙がこぼれそうになる
「……………」
スッ
背後から抱きしめられた。
ドキン
「飛龍……?」
「早く洋服を着ろ!風邪引く」
「そうだね……飛龍……今日迄ありがとう」
「えっ?急にどうしたんだ?お礼を言うのは俺の方だぞ!」
「……私……飛龍の役に立っていたかな?」
「ああ」
「そっか……それなら良かった」
「………………」
私は飛龍の方にゆっくり振り返ると向き合う。
「飛龍……私……」
キスされた。
ドキン……
「飛龍……」
キスだけじゃ足りない
本当は触れたくて仕方がない位
お互い求め合っていた
だけど私達はブレーキをかけていた
「洋服を来たら俺の部屋に来て欲しい」
「うん……」
私は着替えて飛龍の部屋の前に行く。
「今迄、一緒に過ごしていたけど……飛龍の部屋に入るのは初めてだ」
カチャ
私がドアノブにてを掛けようとしたと同時にドアが開いた。
私が部屋に入ると飛龍は私を背後から抱きしめた
ドキン
「本当は……もっと触れたくて仕方がない……でも……ここでお前にこれ以上触れたらもう会えない気がしてならない」
ドキン
「飛龍……」
私をお姫様抱っこをしベットに乗せた。
私の上に股がる飛龍。
なれない光景と上から私を見つめる姿に私の胸はドキドキ加速する。
唇にキスをされ、そのまま首スジと胸の辺りまで這わせた。
そして、再びキスをし見つめる飛龍。
「奈月……今回は一旦、終止符(ピリオド)を打とう。そして再会した時、もしお互いの人生に必要な相手と思った時、俺は……お前の全部(すべて)を貰う」
ドキン
「じゃあ……もし……必要な相手じゃないと思ったら?」
「……その時は……本当にお別れだ」
「………………」
スッと私の片頬に触れる。
ドキン
「お前には……まだ、もう1つの人生がある。このまま……お前の全部(すべて)をもらうわけにはいかない……」
「飛龍……」
「奈月……」
私達は、ただ、ただ、抱きしめ合った。
次の日の朝。
飛龍より先に目が覚める。
飛龍の寝顔を見つめキスをした。
「飛龍……私は……あなたが好き……」
そしてマンションを後に出て行った。
~ 飛龍 side ~
俺はアイツが起きた事も
キスされた事も気付いていた
だがアイツの哀しむ姿を見たくなかった
アイツが俺に想いを言った時は
正直
引き止めたい思いになった
『俺の傍にいろ!俺から離れるな!』
アイツが部屋を出て行く時
秘めていた想いが溢れた
『俺もお前が好きだ』
と――――
しかし
今は一緒にいてはいけない
その想いがある限り
俺達は自分の想いを
押し殺していた
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