第5話 マンションの建物の前の訪問者
ある日の事 ――――
「……あの人……何してるんだろう?……美人な人……」
マンションの建物の前に、一人の女性が佇みマンションを見上げている姿。
そして、女の人は去って行き始める。
「………………」
「マンションの下見?」
そこへ車から降りて来る飛龍。
「奈月」
「あっ、飛龍」
「どうかしたのか?」
「ううん」
私はふと女の人を見ると、去り始めていたはずの女の人は、こっちを見ている事に気付いた。
しかし、彼女はすぐに目をそらし足早に去って行った。
一足先にマンションの建物に向かっていた飛龍が、私が来ていない事に気付き後戻りしてきた。
「奈月、何をしているんだ?」
「えっ?あ、ごめん、ごめん。行こう、行こう」
私は飛龍の背中を押し前に進ませる。
≪あの女の人……飛龍を知ってる?≫
≪もしかして……あの女の人が手紙の?≫
≪それとも……別の彼女?≫
その日の夜 ――――
「飛龍」
「何だ?」
「ここに戻って来た時、手紙有ったでしょう?あの内容、何だったの?」
「内容? "ごめんなさい" と、一言。ただ、それだけだ」
「ごめんなさい?」
≪別れている?≫
≪実は付き合っていて飛龍が戻って来なくてサヨナラを告げた?≫
「………………」
「さっきから何を難しい顔しているんだ?」
「えっ?あ、いや……早く記憶戻れば良いね」
「えっ?」
「いや……ほら、自分の人生だから飛龍は良いかもしれないけど恋人いるなら恋人の所に早く戻ってあげないといけないでしょう?」
「………………」
「それに結婚していたかもしれないなら早く奥さんの所に戻らないと」
「奈月?」
「あっ!用事思い出した。部屋に行くね」
私は自分が利用している部屋に行った。
私は正直不安で仕方がなく怖かった
彼女がいるならまだしも
実は結婚していたら
確実に飛龍はいなくなる
だけど
相手が別の人と結婚していたら
何処か安心してしまう自分がいること
―――― そう ――――
私の心は少しずつ
彼に傾き始めていた
――― たけど ―――
認めたくない自分がいて
正直複雑で
でも ――――
気持ちを押し殺していたのは
事実かもしれない
だって――――
本当の心のこの想いに
気付いていなかったのだから
それから数か月が過ぎ ――――
私の心は
彼に惹かれていた
だけど ―――
その気持ちに気付かずにいた
――――ある日の事 ――――
「飛龍、今、私の部屋の片付けしてみても良いかな?」
「部屋?別に構わないが」
「ありがとう」
私は部屋を片付ける事にした。
その途中 ―――
コトッ
棚の奥から何かが転がるような音がした。
「…ん?」
私は取り出す。
トクン…
私の前に現れたのは四角い小さなジュエリー箱
「…これ…もしかして…」
パカッ
蓋を開ける。
ズキン…
胸の奥が小さく痛んだ。
信じたくない
認めたくない
見たくない
――― だけど ―――
蓋を開け、目に飛び込んだのは
填められていない
指輪が
入っていたのだから ―――――
これは渡すはずだった?
それとも返された指輪?
「eternal love…………永遠の恋人……」
その日の夜。
「奈月、入るぞ!片付けは終わったのか?」
カチャ
ドアが開く。
「うん……終わった……飛龍…彼女…いるのかもね……」
「えっ?」
私は指輪の入った箱を渡す。
「これは?」
飛龍は受け取り蓋を開ける。
「指輪?」
指輪の輪の中をのぞき込む飛龍。
「eternal love…………永遠の恋人か……」
「思い出せない?前に手紙を渡してくれた人なんじゃないかな?だけど……手紙の内容からしてみれば……まだ……知らない…他の人……?
「………………」
「前に…美人な女の人がマンション見上げていた時あって……何か関係しているのかもしれないよ……」
「だとしたら、どうして立ち寄らないんだ?」
「えっ?」
「それが事実なら俺に関係しているなら部屋を知ってるはずだろう?手紙が挟まっていたんだ」
「………………」
「そう…だね…私はパズルを揃えて繋がっていくのを見届けるだけだから……パズルの破片(かけら)が揃ったら私達は終止符(ピリオド)だもんね」
「奈月……」
「飛龍、余り無理しないで深く考えたら駄目だよ。思い出そうとしても無理な事は無理なんだから…早く記憶戻って欲しいけど私達には時間はあるからゆっくりで良いんだからね」
「ああ」
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