その3
俺はこの間買ったばかりのスマートフォンを悪戦苦闘(というのはいささか大袈裟か)で操作をして何とか当麻淳のブログにたどり着いた。
画面をスクロールさせて過去のログを漁る。
日付は不定期だったが、大抵は作者自身がどこに行って何をしたかということが写真入りの日記形式で綴られていて、時には読者(彼のファンだろう)が、感想を残せるようになっている。
しかしそれも付いていたり、ついていなかったりと様々だが、概して好意的なものばかりだった。
新作についての告知みたいなものもあって、無論それにもコメントが付いていたが、やはり賞賛しか書かれていなかった。
後で知ったのだが、こういうブログの場合、大抵『管理者』と呼ばれる人間がいて、予めそうした書き込みを選定して、極端にひどいもの、例えば意味不明な誹謗中傷の類は削除するようにしている。彼の場合、某出版社の編集が、その任に当たってくれているらしい。
目がちらちらしてくる。
”やっぱり俺は典型的なアナログ人間なんだな”
いい加減うんざりしながらログを追ってゆく。
あるところで目が止った。
日付を見ると、1年前のちょうど同じくらいの時期に当麻氏がアップしたものだ。
雑誌に連載されていた新作が今度単行本になった旨の告知だった。
その新作というのは、いわゆる”不倫物”で、既婚者のキャリアウーマン(当たり前だが、美人だという設定になっている)が、年下のいささか頼りない部下に愛を告白され・・・・という、どこにでも転がっていそうな、不倫漫画だという触れ込みだそうだ。
一コマだけ漫画が掲載されていた。
確かに”その手風の漫画にしては絵柄も綺麗な方で、下品に過ぎてはいない。
他の記事にはそれほどの感想は付けられていなかったが、ここだけは違った。
通常の倍、いや、二倍は付いていた。
しかし大半は他と同じくやはり作品を称賛するものばかりだった。
中にはご丁寧にも小説風に続編を書いてきた者もいた。
”たかがエロ漫画に随分な思い入れようだな”
俺はいささか苦笑したが、問題はずっと下だった。
作品を批判する書き込みがあったのである。
他もひと当たりチェックしたが、批判的な書き込みはここだけだった。
ただ、批判しているからと言って、決して罵詈雑言を羅列しているわけではない。
極めて理性的に、作品の矛盾点であるとか、辻褄の合わない部分などを指摘していた。
多少気になったところがあるとすれば、時として妙に古臭い道徳論を振り回していたりすることだ。
ハンドルネームを見てみると、
”浦島太郎”
とある。
書き込みには他の投降者からレスポンスが付けられることがある。
彼にも当然ながら付けられていた。
しかしそれらは、
”そんなに嫌いなら何故読んだ”
”誹謗中傷は止めてくれ”
”たかがエロ漫画なんかに何を目を吊り上げてるんだ”
”怪しからんと思うなら読むな”
等、等、等・・・・
まあこんな感じで、一様に、浦島太郎君を批判する内容になっていた。
浦島君はそれに対してあくまで理性的な答えを返していたが、やがてある時を境に無くなってしまった。
また日付を確認する。
約半年前だ。
それっきり”浦島太郎“君は全く姿を見せていない。
”ここらあたりから探ってみるか・・・・”
俺はスマホの電源を切り、立ち上がった。
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