第69話 データ開示と今後の流れ

 女帝から、めちゃめちゃに感謝の言葉をもらった後、再び同じ宿に戻ってきた。

 足下の草が一部張り替えられている。

 最高級の部屋だけあって、宿泊ごとにリニューアルするみたいだ。


「わはーい!」


『きゃっほーですわー』


 マスコットのナディアを抱えたマナが、畳のような床上を駆け回る。

 足の裏のちくちくが堪らないようだ。


「とりあえずマゴトは撃退したんだけど、俺はどっと疲れたのだ」


「あー、カイルくん、一人で頭使うポジションだったもんねえ。

うちもマナちゃんがナディアと一緒になっちゃったのはびっくりしたけど。

あれ以降、明らかにナディアの知性が低くなったっていうか」


『失礼ですわねー! ですけれど、確かに宿主となったマナちゃんに気持ちが引っ張られているのはありますわね』


「でも、マナとナディアがマナディアになってから、私の身体もさらに軽くなったんですよ。

これはつまり、カイル様の力も上がっているのでは?」


「そうなのかな?」


 俺は床に腰を下ろして、スマホを触ってみる。

 ブレイブグラムを起動してみて、さてさて、フォローしている英雄姫はどうなっているだろうか。


「おっ、マナとナディアがどっちもアイコン登録されてる。

それと……暗いアイコンがあるな」


 ちょんちょん、と暗いアイコンをつついてみる。

 一瞬だけ、そこはぼんやりと光った。

 光の中に見えるのは……マナディアだ。

 これは、二つのアイコンが不活性化して、暗くなってるマナディアのアイコンが光るというやつか。

 試しにナディアのアイコンに触れ、マナディアめがけて動かしてみた。

 おっ、動くぞこれ。


『むむむーっ!? わたくしがマナちゃんに近づいていますわ!』


「あ、これ、俺の方でも合体を指示できるのか!」


『勇者カイルは、全ての英雄姫の指揮官でもあります。ブレイブグラムは、フォローした英雄姫たちへDMダイレクトメールで個別にメッセージを送ったり、専用のマクロを用いて行動の指揮を行うことができます』


「まるでソシャゲだな……!」


『基本システムはその通りです』


 そっか。

 俺がこの世界に呼ばれたのも、もともとはソシャゲを遊んでたからだったな。


『三名の英雄姫が揃いましたので、今後はフルメンバーでのオーダーを行うことができます』


「オーダー?」


『勇者カイルの力を英雄姫へと分け与えることです。オフェンスオーダー、ディフェンスオーダー、サポートオーダーの三つが可能となります』


 なるほど、つまり俺は、三人の英雄姫を並べて、後ろから彼女たちをコントロールする。

 その上で、オーダーなるものを使い、彼女たちをパワーアップさせられるということだ。


「これ、俺がいちいちやってたら戦いに行けなくならないか?」


『そのためにマクロが用意されています。これを勇者カイルが自分向けにカスタマイズし、戦闘に応じて自動で走らせることとなります。無論、音声入力にも対応しています』


「オッケーオッケー。それならいけると思う」


 早速、俺はヘルプ機能に補助してもらいながら、ブレイブグラムのマクロをいじりはじめた。

 と言っても簡単で、ヘルプ機能が用意してくれたパーツを、自分のやりやすいように組み合わせるだけだ。

 ええと、セシリアは攻撃型で、エノアは後方支援と攻撃併用だろ。

 マナディアは完全に支援だけど、回復と雑魚散らしが両方やれるから……。


「カイルの兄ちゃん、なんかむつかしい顔をしてうなってる」


「しーっ! カイル様は今、とっても忙しいんです。

邪魔しちゃいけないですよ」


「うんー。セシリア姉ちゃん、それじゃさ、この間とちゅうだった、字を教えてくれるのやってー」


「ええ、それじゃあお勉強にしましょうか」


「セシリアちゃん、脳筋に見えて実は聖王国の学問とかちゃんと修めてるからねえ……。

人は見かけに……いや、見た目は清楚なお嬢さんだから、見かけによるのかな?

うーん」


「セシリアの知力パラメーター高いからなあ。

っていうかセシリア、全部のパラメーター表記がBランク以上って、改めて見るとこれ凄いな」


 ブレイブグラムで、英雄姫たちの能力パラメーターを見られることに気付いた俺なのだ。

 これに合わせてマクロを組めるから、便利といえば便利。

 筋力、敏捷、知力、魔力の四つが基本で、これに英雄姫ごとに独自のパラメーターが二つついてくる。

 セシリアならこんな感じ。


 筋力B+、敏捷A++、知力B+、魔力B、風の銀槍EX、鉄心A


 最後の英雄姫に相応しい、究極系みたいな能力値。

 対して、エノアはこう。結構でこぼこがある。


 筋力D、敏捷B、知力C、魔力B+、魔弾の射手EX、斥候A


 基本スペックではセシリアに劣るけれど、そもそも活躍場所が全く違うから問題ないんだな。

 で、マナディアがまたピーキーなのだ。


 筋力E、敏捷C、知力D、魔力A++、癒やしの姫EX、合体魔法少女EX


 最後のはなんだね……?

 とにかく、マナディアのスペックは強くない。

 黒貴族と向かい合ってやり合うなんてもっての他だ。

 だけど、この合体魔法少女という謎のパラメーターが、彼女の能力を押し上げている。

 しかしまあ、知力Dは予想外だった。


「うーん、うーん、むずかしい~」


 いや、セシリアに文字を教えられて、頭から湯気を出しているマナを見ると納得かも知れない。


「じゃあヘルプ機能。俺をこれに換算したらどうなるんだ?」


『オールBです』


「えっ。強いんだけど微妙……」


『勇者とは万能なものです。その時に応じ、英雄姫をインストールすることで彼女たちの突出した利点を己のものとします』


「なるほど、そう考えると、みんなの弱点を補って、長所だけを発揮する超性能な技みたいなものなんだな」


 納得した。

 ということは、これを見る限り……。

 セシリアは基本、外に出して戦ってもらったほうが力を発揮する。

 何せ、全てのスペックが俺以上なんだ。

 弱点もない。

 汎用美少女型決戦兵器って感じだ。


 対して、エノアやマナディアは状況に応じて活躍が限られるかも知れない。

 エノアは割と精神的に打たれ弱いところもあるみたいだし、マナはまだ子供だし。

 この二人を敵に合わせてインストールするかどうか、判断だな。


 そして、マクロには英雄姫アイコンをあてはめるスロットがあるんだが、これの数が七つ。


「英雄姫は全部で七人仲間になる?」


『不明です』


 ヘルプ機能の返答はそっけない。

 だけど、これにナディアが答えた。


『なるほどですわね。確かに、今に知られる著名な英雄姫は、わたくしを含めて六名。それに現代の英雄姫であるセシリアさんを加えれば、納得できる数ですわね』


「そんなにいるのか……!」


『速さ、力、技、弓、癒やし、拳、魔法。それぞれの英雄姫を象徴するワードですわ。よーく覚えておかれるといいと思いますわよ?』


 よし、メモしておこう……!

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