第63話 世界の果てに向かって

 一日かけて準備をして、いざ、レヴィアタンの眠る場所へ向かうという事になった。

 ガルム帝国では、奥の方にある岩山が、まるごと畑になっているらしい。

 そこから荷馬車などに載せて、作物が運ばれてくる。


 地上に降りなくても暮らせるようになっているんだなあ。

 不思議なところだ。

 食料などは朝になると市場に並ぶというので、そこを狙い、みんなで買い出しに行った。

 この辺りは、今まで旅をしてきていた地方と気候が違うので、この気候に合った食料を持っていかないと、腐ってしまったりするかもしれないからな。


 購入したのは、発酵したバナナみたいなのと、謎の辛い粉末。

 それからにおいのきついハーブみたいなのだ。


「このバナナみたいなのは虫がよりにくい。

このまま持ち歩くと、目的地についた当たりでちょうど中のでんぷんが糖に分解されて甘くて美味しくなるって。

ただ、放っておき過ぎるとお酒になるそうだ」


「不思議な食べ物がありますねえ……」


 味はヨーグルトみたい。

 これが主食。

 他はナッツ類と、香辛料の類。

 辛い粉末は、何に掛けても殺菌効果があるのだそうで、これで現地調達した食料はなんとか食べられるようになる。

 ハーブみたいなのは、生水を浄化するんだとか。

 このままでも生きており、水につけると、中にいる雑菌や微生物を食べてしまうのだそうだ。

 そして身体から、このきついにおいを発して水に菌類をよせつけないようにする。


「このにおいは……昔の蚊取り線香のにおいだ……」


 南国のガルム帝国。

 変なものがたくさんある。


 殺菌した水に口をつけて、マナが「うえー」と顔をしかめた。


「カイルの兄ちゃん、こんなの飲めねえよう」


「でもそれしか水を安全に飲めないんだぞ。我慢しなさい」


「うわーん」


 慣れだよ、慣れ。


「いけますね」


「いけるいける」


「ほら、お姉さんたちは平気で飲み食いしてるだろ?

……って、こらー!

それ携行食なんだからここで食べるなー!」


「あっ、すみません!」


 マナがじとっとした目で俺たちを見る。 


「兄ちゃんや姉ちゃんたちは、ふつうじゃないんじゃ……?」


 鋭い。







 兵士たちに見送られて外に出ると、ダンタリオンがやって来た。


「待っていたぞ」


「お前、本当に国の外で待ってたのか……」


 ガルム帝国の女性兵士たちが苦手らしいダンタリオン。

 向こうからは見えない辺りで、俺たちと合流した。


「場所は分かっているとは思うが、ひとまず私が案内をしよう。

侵入者避けの仕掛けなどもある。

まあ、それらも勇者に掛かれば物の数ではあるまいが」


 ちらちら、スマホを見てくる。

 それはそうなんだけど、誰か英雄姫をインストールしないと裏技モードは使えないんだ。

 この技を悪魔の前で見せるほど、俺はうかつじゃないぞ。


「あれは疲れるからな。

案内してくれるならありがたいよ」


「ふむ」


 ダンタリオンは軽く頷き、馬を前に進めて行った。


「カイル様、今後ろから攻撃したら倒せますよ!

やりませんか!」


「今、一応彼とは同盟状態だからね?」


 セシリアは相変わらず、悪魔絶対殺すモードだ。

 常在戦場で、どうやら小さい頃から悪魔と戦い続けてきた彼女は、容易に自分の頭の中を切り替えられないみたいだ。

 俺がちゃんと手綱を握ってないとな。


「セシリアはしばらく、必ず俺の隣にいるようにね」


「カイル様の隣に!?

そ、それは特別なポジションなんじゃないですか……?」


「うん、特別だ」


 特別に注意を払っておかないといけない人を置いておくポジションだね。

 下手に、レヴィアタンと会った時に襲いかかられたら堪らない。

 セシリアは何か勘違いしたようで、頬を緩ませたあと、ニコニコして鼻歌なんか歌いだしている。

 後で埋め合わせはするから……!


 ガルム帝国から出た後、国を構成する岩山の間を抜けていく、不思議な旅が始まった。

 岩山の間を、大きな河が流れていて、これを遡っていくのだ。

 ダンタリオンは何も説明してこないので、代わりにナディアがガイドになった。


『ガルム帝国は、この大河、レイル河を水資源として使っているのですわ。岩山はこの水を吸い上げる力がありますの。そして、河は遠く、世界の果てから流れてきていますのよ』


 世界の果てか。

 昨日聞いた言い伝えでは、世界はベリアルによって切り取られたとされていた。

 だとすると、この世界には切り取られた端……世界の果てがあることになる。


『レイル河の始まるところに、レヴィアタンは眠っている。言い伝えはそう言う内容でしたわね。わたくし、ことによっては、この水はレヴィアタンの力で生み出されているとも考えていますのよ。レイル河は、オケアノスの大海と血海の双方に流れ込んでいますもの』


 未知の地名が出てきた。

 地図アプリで調べてみることにする。

 オケアノスの大海は、言わば地中海みたいな感じだ。

 この海に、聖王国が面している。

 そして血海は、地球で言う紅海のことか。

 この海も最前線の一つで、人と悪魔の血で赤く染まったことから、血海と呼ばれているそうだ。


 俺は画面をスワイプして、地図を縦横に動かしてみる。

 すると、あるポイントから先に表示が動かないことが分かった。

 これが世界の果てだな。


 ガーデンは、北はルーマニア、西はイタリアの一部、東はカスピ海、そして南はエジプトという範囲で構成されているようだ。

 地形もなんとなく、地球のその辺りに近い。

 俺が旅して来たのは、トルコから中東、エジプトに至る辺り。

 割と大回りだったみたいで、聖王国からは離れた地域で冒険していたみたいだ。


 そうか、すると……。

 トルコから北が最前線とされている地域で、その辺りに悪魔たちはたくさん住んでいるのかもしれないな。

 イタリアの辺りはどうなんだろう?

 ……と、いけないいけない。

 現実の地名と符号させると、思わずそっちの名前で呼んでしまうな。


 旅はそれなりに長い。

 二週間ほど、帝国の岩山をくぐる旅が続く。

 岩山は、あちこちが帝国を構成する小都市となっているらしく、たまに入り口を見つけては、そこで食料の補充などができた。


 この国、レイル河を覆うように作られてるんだな。

 絶対、自然にできたものじゃない。

 魔法の力によるものなんじゃないか?

 これも、後で詳しいところを調べてみよう。


 そして二週間目。

 ついに、目的地に到達だ。

 そこは世界の果て。

 唐突に、世界が途切れている場所だった。

 話に聞くと、悪魔との最前線は、この辺りだけを避けるように展開されているという。

 ここのどこかに、レヴィアタンがいるのだ。

 

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