5・ガルム帝国
第56話 南の国はアマゾネス?
南方、女性の国と言うと、アマゾネスを連想する。
南米アマゾンに住むと言う、女性だけで構成された国家。
その国に住む女たちは誰もが戦士であり、並の男など歯牙にもかけない強さを誇る、と。
じっと、我が仲間の女子たちを見つめる。
「何ですか、カイル様?」
「なーに? カイルくん、何か失礼なこと考えてるでしょ」
女の子が強い。
それって全く違和感が無いよな。うん。
うちにはめちゃくちゃ腹黒いやつもいるし。
『今のはわたくしにも分かりましたわよぉ』
面倒くさい奴に勘付かれたぞ!!
「マナ、俺は何も変なこと考えてないから、そのぬいぐるみをモミモミするんだ」
「んお? ああ、わかったぜ! もみもみー!」
『あーれぇー』
契約者であるマナにモミモミされると、ナディアはやられ放題なのだ。
ここ数日の旅で見つけた、ナディア攻略法だ。
「ちょっとー。カイルくん何か言いなよー」
「いやさ、俺の世界にも、アマゾネスって言って女だけの国があって、それがめっちゃくちゃ強かったっていう話があるんだけどさ」
「へえー、ガルム帝国みたいですね。
でもあの帝国って、男の人も普通にいるそうですよ?
ただ、国の重要な役職には女性しかつけないんだそうで、その補佐には必ず男性をつけるという決まりがあるとか」
「そうだったのか!
俺が知ってるアマゾネスの国って、男はさらってきて子作りの素にするだけだったんだけど」
「うわあ、残忍!」
「子作り!」
エノアがドン引きし、セシリアが違うところに反応し、赤面した。
セシリアやめろ、意識しちゃうから。
「ってことで、そのガルム帝国って、ちゃんと国のシステムを考えてるんだなって思ったんだよな。
どっちかだけに偏ったら、それはそれで上手くないだろ?」
よく分からんけど、日本でネットなんか見てるとそういう話をちょいちょい見た気がする。
じゃあ、これから行く国には期待だな。
今までよりも、きちんとした国かもしれない。
俺たち一行は、どんどん進んでいく。
都市国家群を抜けてぐんぐんと南下すると、気候が明らかに変わってきた。
暑いだけだったのが、湿気が加わり、じめじめしてくる。
「ほえー、兄ちゃん、暑い、暑いんだけどー」
マナが上着を脱ぎ捨てて、下着一枚になっている。
これ、はしたない。
砂漠地方出身のマナには、湿気がある暑さっていうのは大変かもしれない。
「カイル様、暑いです……!
ですがご安心下さい。私、こういうところでも動きやすい服装を考えていました!
この、砂漠オオトカゲの皮膚を加工して作った、リザードチェインという装備がありましてね」
セシリアが、その装備を身につけて見せてくれた。
ほうほう、網状になった全身スーツという感じだ。
最低限の衣装の上にそれを装着するものだから、セシリアの結構肉付きがいいからだがとても大変なことになっている。
──少々エッチ過ぎませんかね……。
「大丈夫ですよ、カイル様。
リザードチェインは独特の臭いを出していて、南国の危険な昆虫を寄せ付けない効果があるんです。
鱗がついていた頑丈な皮膚ですし、武器だって防ぎますよ!
ただ、槍や矢は弱点なんですよね。
そこは私の身のこなしでカバーです!」
論点が違うよ、セシリア!
「それいいなあ。うちもそれ着るー」
「おれもー」
「エノアはいいけど、マナはまだだめです!
サイズが合わないし、育ち盛りの子が身体を締め付けるものは着たら良くないんですよ」
「身体を締め付ける……!?」
「セシリアちゃん、カイルくんが危険な目をしてるから、もうその辺にしてあげて……!」
御者台に座る俺は、エノアの助けで妄想を膨らませなくても済むようになった。
次にやって来た悩みは、うちの英雄姫二人が、網っぽいスーツに身を包んでトコトコあるきまわる姿を、始終見るようになったことだった。
俺の煩悩的なのが、全然解決してないんだけど!
そんなやり取りをしながら、周囲に人の気配が無くなってきた。
辛うじて、ガルム帝国と都市国家が交易に使う道があり、馬車はそこを通っている。
周辺の植生も変わってきた。
砂漠の植物から、ちょっと乾燥に強い植物に。
そして、そこからは一気に環境が変わる。
蒸し暑くなっていくと共に、周囲があっという間に熱帯雨林へと変化していった。
人の気配はない。
だけど、鳥や動物、昆虫の気配が凄い。
生命が溢れる場所だ。
聞いたことのない鳥の声。
それとも、猿の鳴き声だろうか?
途中、吊橋が掛けられた大きな河に遭遇した。
馬車で橋を渡るのだけれど、河には何頭ものワニがいて、じっと俺たちを見上げている。
もうジャングルである。
ガルム帝国って、位置的にはやっぱりアマゾネスなんじゃないか。
「ああ、もう! また虫が来たー」
マナが顔をしかめて、まとわりつく虫を追い払っている。
リザードチェインを利用した腕輪をつけているので、最低限虫は追い払えるのだが、それでも根性がある虫はいるらしい。
蚊みたいに、病気を媒介する虫だったら大変だ。
「ヘルプ機能、何か虫よけのアプリってある?」
『アンチモスキート音アプリがあります。昆虫が不快に感じる音を、人間が感じられない周波数で発するものです』
「よし、それをダウンロードしてインストール。すぐに展開」
『ダウンロードを開始します』
展開まで、ほんの一瞬だった。
一瞬、俺は耳鳴りを感じた。これはエノアも同じらしい。
だが、すぐに気にならなくなる。
マナにまとわりついていた虫は、慌てたように馬車から出ていった。
彼らにしか分からない、不快な音が聞こえているようだ。
「何の音だね? 不思議な音が聞こえるようになったが」
久しぶりにダンタリオンが声を掛けてきた。
こいつには聞こえてるのか。
悪魔は昆虫に近い?
「……何を考えているのかは分からないが、違うぞ」
俺の考えが分かってるんじゃないか。
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