第15話 裏技
迷宮への入り口は、玉座の真下にあった。
これもまた、建国以来動かされたことがないという玉座らしい。
ひっくり返したら、下に階段があって、国王もハマドも宮廷魔術師もびっくりしていた。
「凄いです、カイル様。どうして分かったんですか!?」
「ゲームの知識というか……。同じようなのを何回も見ているからね」
セシリアからの尊敬の視線がこそばゆい。
ただ、俺の世界では、玉座の回りに階段があるというのは割とメジャーなゲームのネタなんだけれど、“ガーデン”では違うのだ。
仕掛けたであろうアスタロトも、まさかすぐに見つけられるとは思っていまい。
「行ってくる」
「ご無事で!」
ハマドの応援を受けながら、俺とセシリアは迷宮に挑む。
アスタロトの迷宮。
ディアスポラの地下深くへと続く巨大なダンジョンだ。
階段を降りきると、そこはカーブを描く通路になっていた。
どうやらこれは、螺旋を描いて下層まで続いているようだ。
「カイル様、アスタロトの迷宮と言えば、入った者は帰ってこないという帰らずの魔窟。
かなりの日数が掛かることを覚悟しないとですね……」
セシリアは緊張した面持ちだ。
俺達は、数日分の食料を提供されていた。
水に関しては、セシリアがある程度魔法で生み出すことができるそうだ。
魔法って便利。
だけど、セシリアの覚悟も、準備した食料も、そこまで必要はないかもしれない。
「俺はさ、腹を立ててるんだ。だから、この迷宮をアスタロトの思うように進む気は無い」
灯りはセシリアの魔法に任せつつ、俺はスマホのロックを解除した。
そして、ブラウザのネット検索画面で“アスタロトの迷宮”と入力する。
迷宮の見取り図を検索してやろうというのだ。
これまで何だって出来た俺のスマホ。
今回だってきっとやってくれると信じている。
ブラウザは読み込みを開始した。
スマホがぶるぶると振動し、熱を持ち始める。
ブラウザの読み込みを示すバーが、ぐぐ、ぐぐぐっと少しずつ伸びた。
だが、そこまで。
検索結果が、いつまで経っても表示されない。
これだけ時間が掛かるとは意外。
「いや、これ、迷宮そのものか、もしくはアスタロトが抵抗してるのか?」
頑張れ、検索エンジン。
この迷宮を丸裸にしてやるのだ。
だがしかし、検索結果が表示されないまま、スマホに表示されているバッテリーがみるみる減っていく。
そこまでか、アスタロトの抵抗。。
それほど、迷宮の見取り図を検索するためのプロテクトは硬いのか。
「これ、バッテリーを補充しないと……。ヘルプ機能」
『ご質問をどうぞ』
スマホが、セシリアと同じ声で答える。
「まず、検索エンジンが働いていても読み込みが遅いんだが」
『黒貴族アスタロトによる、魔法的抵抗が行われています。当スマートフォンの演算能力では、拮抗するのが限界です』
「対策はあるか?」
『対策は、英雄姫セシリアの力を借りることです。英雄姫セシリアをインストールして下さい。それによって、当スマートフォンは演算能力を著しく向上させることが可能になります』
セシリアをインストールする……?
確か、俺が最初に世界に降り立った時、チュートリアルで言われたことだ。
未だにその意味はよく分からない。
だが、勇者カイルが持つ三つの力の一つとして挙げられたのだから……出来るはずだ。
「セシリア、手を貸してくれ!」
「はい、カイル様!」
『英雄姫の同意を得ました。インストールを開始します。“ブレイブグラム”を開き、英雄姫セシリアの上に表示されるインストールボタンにタッチして下さい』
俺はヘルプの通りに、“ブレイブグラム”のセシリアのページを開いた。
確かに、そこにはインストールボタンが出現している。
「英雄姫セシリア……インストール!」
俺はボタンにタッチした。
その瞬間だ。
隣に立っていたセシリアの全身が、光に包まれる。
そして、彼女は輝きながらふわりと浮き上がり、スマホの中へと飛び込んでいった。
「これは……。お、おおっ!?」
俺の体がカッと熱くなる。
そして、スマホのバッテリーが凄まじい勢いで回復していった。
ブラウザの読み込みを示すバーが、一気に進んでいく。
アスタロトの抵抗を突き破ったのだ。
やがて、アスタロトの迷宮と題されたページが眼の前に出現した。
それは言わば、ショッピングセンターや複雑な構造の駅を表すようなフロアマップ。
各フロアのあちこちに、多彩なアイコンが光っており、アイコンをタッチすると説明が表示される。
罠も隠し扉も、丸裸だ!
「ところで、セシリアはどうなったんだ?」
『作業終了。英雄姫セシリアをアンインストールします』
スマホが答えると、アンテナ部分から、さっきセシリアを包んでいたのと同じ光が飛び出してくる。
それは俺の傍らに落ちると、やがてセシリアになった。
彼女は目を丸くして、ぼーっとしている。
「セシリア、大丈夫……?」
「び、びっくりしました。私、いきなり光に包まれて、パーッと飛んだかと思ったら……。
気がついたら、たくさんの数字や模様が泳ぐ白い空間で、裸で泳いでたんです。
なんでしょう……夢でも見たんでしょうか」
インストールされる側のイメージはそんな感じか。
びっくりさせて申し訳ない。
だけど、お陰で助かった。
「セシリア、君のお陰で、アスタロトの迷宮はもう攻略したも同然だ! ありがとう!」
「は、はい! お役に立てて嬉しいです!」
訳が分からないなりに、俺にお礼を言われて嬉しいセシリア。
見た感じ、笑顔の彼女は疲れた様子も無い。
インストールは、デメリット無しなのかな?
『一日、一人あたり三分間しかできません』
「あ、制限時間があるんだ」
ヘルプ機能からの注意を心に刻み、俺は全ての秘密が丸裸になった迷宮に挑むのだった。
「まずはここ、隠し扉ね」
俺が対面の壁をポコンと一定の強さで叩くと、その辺りに四角く光が走り、扉に変わる。
フロアマップにあった、アイコンの表示通りだ。
「ええっ……!?」
あまりの事に、セシリアが驚いて硬直する。
「意地が悪い悪魔の迷宮だぜ? こっちも意地悪く、裏技使いまくりで攻略してやるんだ」
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