第12話 平和ボケの王国
気を取り直して、再びお城に案内される、俺とセシリア。
通されたのは、だだっ広い部屋だった。
たくさんの鎧や、剣、槍、斧……そんな武器が飾られた大広間。
謁見の間を兼ねているみたいで、玉座があって、そこに王様がいた。
例によって、玉座から立ち上がる王。
「黒貴族アスタロトを探しているのです」
上座に立ったセシリアから発された言葉に、王は
心底不思議がってる顔だ。
そう言えば、途中で聞いたディアスポラの伝承では、アスタロトは英雄姫エノアに封じられたんだっけ。
「お言葉ですが、セシリア様。
アスタロトは封じられて久しいのです。
この国が生まれて二百年の間、かの黒貴族が活動したという記録はありません」
ほら来た。
「そんな馬鹿な!
私とカイル様は、ファルート王国でアスタロトの配下であるドッペルゲンガーと戦ったのです!
かの変身する悪魔は、王国で長くスパイ活動を続けていたのですよ!?」
「そう仰られましても……」
困惑する王様。
だが、ハマドの表情は変わった。
そうだよな。
俺とセシリアがここに来るって事は、不確かな情報をあてにしているんじゃない。
アスタロトを探った時、スマホがここを指し示したのだ。
「セシリア、これはちょっと荒療治で目を覚まさせてやらないといけないかも」
「ですね!」
俺達は、目線を交わし合うのだった。
その荒療治と言うのは……。
「はい、失礼しまーす!」
スマホを構えたまま、城の中を歩き回る俺とセシリア。
急に現れた、勇者と英雄姫の姿に、城の人々はびっくり。
そんな彼等をよそに、俺はスマホでこの場にいる全員を撮影した。
「異常なし。いないよ」
「では、次ですね」
「お邪魔したね。ご協力感謝するよ」
俺はそう声を掛けると、また別の場所へと移動する。
きっと、彼等には何が行われているのか理解も出来ないだろう。
だが、これは最も効果的な、ドッペルゲンガーあぶり出し作戦なのだった。
目標は、お城の人間全員をスマホで確認すること。
鑑定アプリで、忍び込んでいる悪魔のスパイを発見し、王様に突きつけるのだ。
そうしないと、アスタロトは死んだ、という常識に凝り固まったあの王様は、俺達の言うことを信じまい。
「セシリア。
悪魔のスパイは、きっと自由に城や街の中を行き来できる人間に化けると思うんだ。
その方が情報を集められるだろ?」
「確かにそうですね!
さすがカイル様です!
あちこちを動ける人を探しましょう!
例えば……給仕の方とか……」
「給仕、給仕ねえ」
セシリアの提案を受けて、給仕という仕事をしている人を探しに行く。
これって、メイドとか言われている人達の事らしい。
なるほど、確かにどこにでも入り込めそうな仕事だ。
「給仕は主に、王族や城に訪れた来賓のお世話をしますから」
「ん? じゃあ、外側の城壁に訓練所がある、傭兵達を見たりはしない?」
「あっ……そうなりますね」
念のために、俺達は城の中を歩き周り、給仕の人全員をスマホのカメラに収めた。
案の定、そこにドッペルゲンガーはいない。
セシリアが次第に、自信なさげな表情になってくる。
「むう……私、見当もつかなくなってきました。
他に、悪魔が変身していそうな人っているんでしょうか……。
もし、私の勘違いだったら」
「大丈夫。俺を信じて。
セシリアの考えある意味では間違いないって、俺が信じてる。
だからセシリアは自分が間違ってるなんて思わないで」
俺の言葉で、セシリアは元気になり、目を輝かせた。
「ありがとうございます!!
カイル様、凄い自信です!
私だってカイル様を信じています!
ならば、カイル様が信じてくださってる私を、私が信じなかったらダメですよね!」
正直な話、ディアスポラ内部に悪魔がいるという証拠なんかない。
だけど、スマホはアスタロトをキーワードに、俺達をこの地に招いたのだ。
何かしらその理由があるはずだ。
再び、城内を歩き回り始めた俺とセシリア。
そんな俺達を、みんな不思議そうに眺めていた。
英雄姫と勇者が城を訪れたと思ったら、何をするでもなく、スマホをかざして城内を隈なく歩き回っているのだ。
確かに不思議と言えば不思議だ。
「精が出ますねえ」
途中で一休みを入れた俺達。
話しかけてきたのは、掃除用具を持ったおばさんだった。
廊下の掃き掃除を終わり、一休みしているところらしかった。
「おばさんは掃除を?」
「はい。この国はまるごとが、大きな建物みたいなものですから。
大勢の掃除人がいて、外の城壁からお城の中までで、隅から隅まで掃除をしているんです」
ここでピンと来た。
この国で、どこにでも自由に移動でき、それでいて誰にも怪しまれない存在。
それは、掃除人と言われる彼等ではないのか。
念のためにおばさんを撮影したら、彼女は人間だった。
「でもカイル様。掃除人は、国のどこにでもいます。
それこそ、数え切れないほどの数が。どうやって一人ひとりを確認していくのですか?」
「それこそ、スマホの出番だよ。ハマド王子に聞いて、この国で一番高いところを教えてもらおう」
俺達がハマドに会うと、彼はにやりと笑った。
「奇妙な事をしているそうではないですか。
ですが、我らに力を見せつけた勇者と、英雄姫の成されることだ。何かの意味があるのだろう」
ハマドは俺達を引き連れ、城の階段を上っていく。
「セシリア様が仰られたこと、確かに我には腑に落ちる事があるのですよ。
我らディアスポラは傭兵国家。国の者達は物心付くと、武器か魔法の訓練を行う。
そしてそれなりの腕前になり、各国へ傭兵として出稼ぎに出るのです。
ですが……ディアスポラの傭兵が出向いた場所では、悪魔との戦いは起こらないのです」
「え?」
妙な事を言われたぞ。
セシリアは俺に頷く。
「確かです。それがために、ディアスポラの傭兵には悪魔除けの力があるのだと言われたりもしています。
それぞれの個人は技量に優れ、とても強い方々なので、下位の悪魔と戦っても引けは取らないはずなのですが」
「傭兵が出向く国や街、村は宮廷魔術師達が決定している。
これも、独自の決定方法があるのだそうだ。
そして出向いた場所では、人間同士の戦いはあっても、悪魔とは戦わない。
ディアスポラは建国以来、一度も悪魔とは戦っていないのですよ」
「それはおかしいよ。異常じゃないか?」
「ええ、異常です。
ディアスポラは戦士の国故、各国から腕に覚えのある人間も集まる。
だが、彼等もディアスポラの食客となれば、悪魔と戦う機会は訪れなくなるのです」
それって、まるで……強力な戦士を一箇所に集め、徹底して悪魔から遠ざけようとしてるみたいじゃないか。
一見すると、強い戦士を温存しているように見える。
だけど、戦士も戦わなければ腕が鈍るし、年を取れば戦えなくなる。
どんなに強くても、戦えなくなってしまえばそれで終わりだ。
そんな状況を意図している何者かがいるんじゃないか。
「何者か、じゃないな。それこそ、アスタロトだ」
俺は確信した。
その頃には、ハマドが案内してくれた、国一番の高所に到着している。
それは、王城と繋がった内側の城壁だった。
壁の一部が盛り上がり、見張り台になっている。
ここからなら、ディアスポラの国を一望に出来た。
「じゃあ、始めるぞ」
俺は宣言して、スマホをかざした。
街のあちこちを、遠景で撮影しながら、ピンチアウトして拡大する。
「よし! 望遠でも鑑定アプリが使えた! ……ちょっと情報量が多いな」
画面に映った、ありとあらゆるものをアプリが鑑定する。
たちまちの内に、画面は解説文で埋め尽くされた。
これじゃあ、使い物にならない。
「カイル様、私、見ててなんだか目が回って来ちゃいました」
文字の奔流を見て、セシリアがクラクラしている。
そうだね。
これじゃあ、数が多すぎる。
鑑定対象を、条件を付けて絞っていこう。
俺は鑑定の条件に、『人間』と付ける。
すると、あっという間に文字数が減った。
行き交う人達だけを鑑定するようになる。
でも、まだ多い。
「次は、条件を追加。掃除人、と」
さらに説明文が減った。
よし、これなら行けるだろう。
ゆっくりと、拡大したまま画面を移動させる。
そして、人々が行き交う市場の辺りまで来たところで……。
「……いた」
ピコン、と輝く、種族:悪魔、クラス:ドッペルゲンガーの文字。
予想通りだった。
無数に存在する掃除人に紛れ込み、悪魔のスパイはディアスポラで暗躍していたのだ。
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