第11話 魔法も腕試し
その後、魔法の試しも行われた。
これは、遠くにある的に魔法をぶつけるもので、その威力と正確さを競うものだった。
現れたのは、頭に宝石がついた布を巻いた男。
口ひげがダンディーだ。
「宮廷魔術師のラムジと申します。どうぞお見知りおきを」
彼はそう自己紹介した。
宮廷魔術師!?
これ、傭兵達の腕試しじゃなかったのか。
なんでそんな大物が出てきているんだ?
振り返ったら、ハマドがにやにやしている。
さてはこいつ、ただの傭兵隊長じゃないな?
「では、先によろしいですか」
「あ、はい。どうぞ」
明らかに年下の俺にも、ラムジは礼儀正しい。
彼は濃い顔でニッコリ笑うと、次の瞬間には真剣になり、遠くの的に向き合った。
「“我らが主に願う。太陽の熱を集め、我が手の上に。これを風の王の吐息にて推し進め、貫く熱の矢と成さん。成就せよ、
歌うような、呪文の詠唱。
そして、伸ばされたラムジの指先に炎が生まれた。
炎は風をまとい、矢の形になって飛翔する。
狙いは正確だった。
的は貫かれ、中心に焦げ跡を残す。
……中心だよ。
凄い狙いの正確さだ。
「どうぞ、カイル殿」
「ああ、やってやるぜ」
俺が進み出た。
もう、外野も俺を囃し立てない。
兵士達の目は期待を帯びていて、今度はこいつは何をやってくれるんだろうかと、俺に注目している。
「ダウンロード、中級魔法」
『上級魔法習得時に、パックとしてインストール済みです』
「便利だなあ……。じゃあ、俺は……
魔法一覧から、検索画面を開く。
そこに、アと打ち込むと候補がずらり。
そこから選択したのがアイシクルジャベリンだ。
文字通り、氷の投擲槍を飛ばす中級魔法。
正確さ、貫通力ともに申し分ない。
画面に、お馴染みの呪文が表示された。
これを俺は、正確に素早くフリック入力していく。
そして呪文が完成した。
「行け、
俺の眼の前に、青い輝きが生まれた。
それは一瞬で魔法陣に変わり、中心から氷の長大な槍を生み出す。
「な、なんと!!」
ラムジの驚愕に満ちた声が聞こえた。
氷の投擲槍は、風を纏って突き進む。
その速度は、炎の矢よりも速い。
狙い
それどころか、勢い余って的を粉々に破壊してしまう。
「おおおおおー!!」
兵士達が沸いた。
「すげええ!!」
「剣も使えるのに、魔法でもあれだけやれるのか!」
「本当に勇者だったんだ!」
どうやら、完全に認められたようだ。
俺のすぐ後ろで、セシリアが得意そうにしているのが分かる。
自分のことのように喜んでくれているなあ。
「いやはや、おみそれしました。
私が中級魔法を使用しようと思うと、もう少し長い時間を詠唱に割かねばなりません。
それにあの威力。上級魔法かと思うほどでした。凄まじい……!」
ラムジは俺の魔法を褒め称える。
ちょっと照れくさい。
ハマドもやって来て、俺の肩を叩いた。
「貴殿の正当性は完全に証明された。
貴殿は傭兵王国ディアスポラが、敬意を持って迎える客人だ。
そして、“風の銀槍”セシリア様が貴殿を称した、勇者なる名もディアスポラは認めよう!」
「ありがとう」
俺とハマド、がっちりと握手を交わす。
「ついては、勇者カイル殿。英雄姫セシリア様。
お二人を、ディアスポラ王宮へと招待したいのです。
この、ディアスポラ第二王子、ハマドの名に
は?
ディアスポラ第二王子だって……!?
つまりこの人は、俺を別の意味でも試してたということじゃないだろうか。
入国に足るかどうかだけでなく、勇者としての力があるかどうか、セシリアが認めるだけの人間なのかどうか。
うーん、食えない人だ。
俺がハマドを見ながら考え込んでいたら、後ろでセシリアが兵士達に向かって何か告げている。
「はい、これでカイル様も認められ、めでたしめでたし……とはなりませんよね?
皆さん分かっておいでですね?」
兵士達が、ゾッとした雰囲気になる。
セシリア、どんな顔を彼等に向けてるんだ。
「カイル様にひどい言葉を投げかけた事、私は許していませんからね。
本来ならばあなた達全員を不敬罪で重罰に……したい気持ちですけれど。
それではディアスポラの守りが
セシリアはここで、俺に振り返った。
とてもいい笑顔をしている。
「カイル様。ちょっと私、彼等に訓練をつけてきます。
手加減なしの英雄姫に訓練してもらえるなんて彼等はとっても幸せですよね」
「うわあー」
俺は心底、兵士達に同情した。
そして案の定というか、ディアスポラの城壁にて、セシリアにしごかれる兵士達の悲鳴がいつまでも響き渡るのだった。
ハマドに案内されたディアスポラの城は、この国を形作る砦の中心だった。
そこは塔のようになっていて、下に行くにつれてずんぐりとした形になっている。
城の周りには堀が作られていたけれど、そこには水が張られていなかった。
「うわっ、穴だ」
城に向かう橋を渡る時、下を覗いてぞっとした。
どこまでも続く、深い深い穴が、堀の正体だったのだ。
「ディアスポラの地下迷宮だ。
この国はかつて、黒貴族アスタロトのものだったという。
アスタロトは人間を捕らえると、迷宮に放り込んで生きて脱出できるかどうかを、ゲームとして楽しんだんだそうだ」
ハマドが説明してくれる。
そして、地下迷宮はまだ生きているのだとも。
「有名なお話ですね。
英雄姫エノアは、彼女の勇者と共に地下迷宮に赴き、アスタロトと戦いました。
そして、戻ってきたのは勇者だけ。
その後、勇者はアスタロトの城を、戦士達が集まる国へと変えたのです」
セシリアが、ハマドの言葉を続けた。
そうか……。
俺達は、かつて英雄姫と勇者が、黒貴族アスタロトと戦った舞台の真上に立っているのだ。
「正直、こんな深い迷宮には潜りたくないな。マッピングだけで気が遠くなりそうだ……」
俺はそう呟いたのだけど、なんとなく、自分とこの迷宮との間には、フラグみたいなものが立っている気がしてならないのだった。
「カイル様、もしかして、迷宮に潜ることを考えてらっしゃいます?」
先に行くハマドをよそに、セシリアが俺に並んだ。
妙にぴったりくっついてくる。
ちょっとドキドキした。
「大丈夫です。もしそうなったとしても、カイル様ならばこんな迷宮、すぐにくぐり抜けてしまいますから!
……それに、その時は絶対、私も一緒です」
「うん、ありがとう! 心強いよ」
主に、セシリアが絶対一緒だという言葉が、俺を安心させてくれた。
俺のスマホと、セシリアの力があれば、アスタロトの地下迷宮だって何のその、だ。
「それじゃあ、セシリアと離れ離れにならないために、できるだけ一緒にいないとな……」
俺がぼそっと呟いたら、セシリアが真っ赤になった。
「できるだけ一緒に……! そ、それはもちろんです! 一緒にいましょう!」
彼女は勢いのままに、俺の手をギュッと握ってくる。
暑いディアスポラの朝。
彼女の手のひらは少しひんやりとして、とても柔らかかった。
「よーし、一緒だ!」
俺も彼女の手を握り返す。
そして、俺とセシリアは見つめ合った。
なんだか、顔が猛烈に熱くなってくるのを感じる。
そんな俺達を、ハマドは突っ込みもせずにじっと待っていてくれるのだった。
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