第二十五話 ……え?
———Side 烏丸
耐えた。
意識が少し逸れただけで気絶するような眠気を。
耐えた。
腕が軋み破裂しそうになる程の激痛を。
耐えた。
口から肺の奥隅々まで綿でも詰められているかのような息切れを。
耐えた。
耐えた。
耐えた。何日も何日も。時間の感覚も、自分のからだの感覚も無くなるほどに。
そして、変えた。
気が狂いそうな苦しみと屈辱を、勝つための活力と、実力に。
勝つ、勝つ!勝つッ!!
その為にどうすればいいかしか、考えてこなかった。
そして───────
「があああああああ”あ”ッッッッ!!!!!」
草が長さを揃えて、余すこと無く刈れた音がザクりと耳の中に届く。
もう何千回目か分からないその音を最後に、
身体中の力が抜ける。
最後に見た森に、伸びきった草は一本も生えていなかった。
全て刈り尽くしていたのか……。
達成感よりも、次は何処で草を刈ればいいのか。
そんな疑問が脳内に過り、プツリと世界は真っ黒になった。
──
再び目を覚ましたとき、仰向けの俺の目の前には太陽があった。
「そうか……昼まで寝てたのか…。」
そして目を覚ましたと同時に、肉体の全細胞が飢えて悶えそうな、恐ろしい飢餓感が襲う。
「腹がへっっっったァァァッ……!」「やば…っい…!」
だが食べ物などどこにも無い。有る訳が無い。森のどこにいるのかも分からない。
不安と死への恐怖よりも、飢餓、飢餓、飢餓。只々何か食べたい……!
「………!」
その時目についたのは、己が高く積み上げた大量の雑草だった。
「これでも…これでもいい……!」
藁……いや、文字通り草にも縋る勢いで俺はその大量の雑草を口にする。
「う…うっ…!」
口をあんぐりと開け必死に草を口内に放り込む。腹から見れば異常者だろう。
しかし、そんな事が気にならない程に————。
「うまい……うまいよっ……!」
苦味は勿論あったが、若干スイカの様な風味がして食べやすい種類の雑草だった。そして何よりも危機的な飢餓によって苦みやマズさなど気にならない。
“空腹は最大の調味料”とはよく言ったものだ。
正直、涙が出るほど美味くて仕方がない。
「う、うぅうう、あぁ、うまい!う、うまい!」
号泣しながら必死に草を頬張る。
食べ物の有難みとは何か、一部でもわかった気がした。
———
たらふく草を食べた後、疲れを癒すため寝転がっていたが……。
「あぁ!いたいた!ホフマンさァーん!居ましたよ烏丸!」
見つかったか……雑草何食べてるとこ見られて、あいつなんて言うだろうな?
「……ッ」
俺の顔を見るなり武藤は顔色を変える。まぁ気付くか、口に草付いてるし。
『お前草食うとか頭おかしいだろ!』か…? それとも、
『草食うほど練習してたのか…』か?
「烏丸、お前……!」
「やっと雑草の旨さに気が付いたのかッ!」
……え?
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